映画『ロマンスドール』は、タナダユキさんが2009年に発表した小説が原作。ラブドール職人とその妻の出会いから、夫婦の愛を描いています。
冒頭から衝撃的な語りでスタートしていることや、ラブドール職人というアダルトな部分も含まれていますが、複雑な関係性が繊細に描かれたことで話題になりました。
この記事では『ロマンスドール』のあらすじを、ネタバレ込みで解説していきます。
更新日:2022-9-30
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映画『ロマンスドール』は、タナダユキさんが2009年に発表した小説が原作。ラブドール職人とその妻の出会いから、夫婦の愛を描いています。
冒頭から衝撃的な語りでスタートしていることや、ラブドール職人というアダルトな部分も含まれていますが、複雑な関係性が繊細に描かれたことで話題になりました。
この記事では『ロマンスドール』のあらすじを、ネタバレ込みで解説していきます。
『ロマンスドール』は、2009年にタナダユキさんが発表した小説を原作とした映画です。
2020年1月24日に公開され、全編16mmフィルムを使用したことでどこか懐かしいアナログ感のある映像に仕上がっています。
実物の女性に近い形の人形を作るラブドール職人が主人公で、妻との10年間を描いた物語です。
2019年に公開予定でしたが、出演者が逮捕されたことで公開延期になったことでも知られています。
この映画の監督は、原作者のタナダユキさんが担当。
タナダユキさんは2006年公開『怪奇!!幽霊スナック殴り込み!』で主演を務めるなど、多彩な活躍をしています。
2007年には蜷川実花監督の作品『さくらん』で脚本を担当。2008年に公開された『百万円と苦虫女』では、第49回日本映画監督協会新人賞を受賞しています。
2009年以降は映画監督業を休止していましたが、2012年『ふがいない僕は空を見た』で復帰。これまでと同様に映画監督・小説家、脚本家として活躍している人物です。
今回の『ロマンスドール』はラブドール職人というアダルトなジャンルですが、職人という素晴らしい仕事にスポットライトを当てたストーリーにしたいとの思いが作品を作ったきっかけだとされています。
ここでは『ロマンスドール』に登場する、出演者について紹介していきます。
美大の彫刻家で学んだ後、先輩の紹介でラブドール工場に勤める職人。
ラブドールに対しての知識は全くなかったものの、働いていくうちに職人として成長していきます。
北村哲雄は、高橋一生さんが演じています。
タナダユキさんはキャスティングの際、密かに高橋一生さんを希望していたそうです。
高橋一生さんは1990年『ほしをつぐもの』で映画初主演。1995年には、ジブリ作品『耳をすませば』で天野聖司の声優を担当しました。
その後、2015年には第1回コンフィデンスアワード・ドラマ賞、第86回ザテレビジョンドラマアカデミー賞において助演男優賞を受賞した経歴の持ち主です。
元美術モデルとして久保田商会を訪れ、哲雄と結婚。旧姓は小沢で、とても気立ての良い妻として登場しています。
北村園子を演じているのは、蒼井優さん。1999年のミュージカル『アニー』でポリー役としてデビュー。
2001年に『リリイ・シュシュのすべて』で初主演して以降、様々なドラマや映画に欠かせない女優となりました。
2006年に公開された『フラガール』では、第30回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞や、第49回ブルーリボン賞主演女優賞など、多くの賞を受賞した実力派です。
久保田商会で働く、唯一の造形師。北村哲雄の師匠であり、相談相手として信頼されている人物です。
久保田と一緒に久保田商会を立ち上げ、30年に渡って究極の人形を作り出そうと常に探求しています。
新製品開発で医療用の人工乳房を作ると偽り、生身の女性から型を取ることを提案するほどの職人魂です。
相川金次は、きたろうさんが演じています。きたろうさんは、1971年に表現劇場を結成後、舞台や映画など多くの作品に出演。
インパクトがある重要人物や脇役としての登場が多く、バイプレーヤーとして欠かせない人物です。
久保田商会の古株であり、管理業務を一手に担うのが田代まりあです。
相川とは「キンキン」「おばちゃん」と呼び合う仲の良さで、常に社員のことを温かく見守る母親のような存在。
田代まりあは、渡辺えりさんが演じています。
高校在学中から演劇をしていて、蟹江敬三さんの芝居を見たのをきっかけに劇団を作ると決意したそうです。
1983年の『ゲゲゲのげ』では岸田國士戯曲賞を受賞し、演劇に対して精力的に活動しています。
映画やドラマでも味のある演技が話題で、面白くもインパクトのある人柄が人気です。
久保田商会の社長。警官時代に留置所に入れられた相川と出会い、会社の設立に至ります。
職人の想いやこだわりに対して理解を示している人物。
わいせつ物頒布等の罪に触れるような製品を売り出し、逮捕されることも恐れていません。
久保田薫を演じたのは、ピエール瀧さんです。
テクノバンド『電気グルーヴ』のメンバーであり、音楽活動以外にも俳優やナレーターなどもこなす人物。
2000年以降、俳優として作品に登場することが多く、2013年公開の『そして父になる』では、第56回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞しています。
相川の後、久保田商会に入社した人物。哲雄の助手でしたが、実用に結び付けた新素材のデータを盗んでしまいます。
両角は、浜野謙太さんが演じています。在日ファンクというバンドのボーカル兼リーダーを務め、愛称はハマケン。
またジャズバンドのNewdayのトロンボーンを担当し、多彩な人物です。
キャラクター性が感じられることで、俳優としても多くの作品に出演。
NHKのEテレ『ムジカ・ピッコリーノ』シリーズではドットーレ・マルコ役として登場し、子どもから大人まで親しまれています。
哲雄がゲーセンで出会った女性。一夜限りですが、哲雄の浮気相手となった人物です。
ひろこは、三浦透子さんが演じています。
三浦透子さんは、2021年に公開された『ドライブ・マイ・カー』で寡黙な運転手として出演。2022年第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞しました。
久保田とは長い付き合いの、内偵調査官。原田は、大倉孝二さんが演じています。
劇団ナイロン100℃所属の俳優で、舞台や映画など多くの作品で活躍中です。
続いて、映画『ロマンスドール』の内容をネタバレありで解説していきます。
映画のポスターには「妻を愛して嘘をついた」「夫を愛して秘密を持った」と綴られていますが、この言葉が意味することは何でしょうか。
『ロマンスドール』の舞台は、東京都。北村哲雄は美大卒業後、フリーターとして生活していました。
美大の先輩だった加藤の紹介により久保田商会に面接に行くことになりましたが、そこは小さな工場でラブドールの胴体がたくさん並んでいます。
ラブドールという言葉を知らなかった哲雄でしたが、田辺まりあが「昔でいうダッチワイフのこと」と教えてくれたことで、久保田商会がラブドール工場であることを知ったのです。
久保田商会は初老の相川しか造形師がいないため、哲雄を雇いたいと考えていました。
哲雄は相川と話し、ラブドール造りに熱意を注いでいる姿を見て働くことを決意。
しかし、あくまでも哲雄はラブドール造りに力を入れているのではなく、生活費のために仕事をしているだけです。
昔のラブドールは、膨らませるのが主流の風船人形でした。
相川はそれを、より人間らしくするために素材をラテックスへ変更。さらに、シリコンに替えるまでの開発には3年の歳月をかけたと聞かされます。
厳しい業界ですが、人肌のようなリアルさを出せれば大ヒットは確実でした。
哲雄も相川に教わりながら作っていましたが、試作品の胸にリアルさがないこと、巨乳より大事なのは美乳だということを社長に告げられます。
開発している相川も哲雄も独身なので、リアルさに欠けてしまう部分があり、それなら生身の人間で型取りしたらどうかと考えました。
そして、久保田商会は医療メーカーであり人工乳房を研究していると嘘をつき、美術モデルを工場に招いてしまいます。
そこに招かれたのが、若くて美しい美術モデルの小沢園子でした。
園子を見た相川は逃げ出してしまい、哲雄が一人で型取りをすることに。哲雄も緊張でスムーズに進められない中、なんとか型を取り終わった頃に相川が帰ってきます。
そして、今度は胸を触らせてほしいと園子に交渉。相川は触った感じが重要だと説得し、真剣に口説いたものの触る作業は哲雄に任せました。
哲雄は園子に触れた瞬間、恋をしてしまうのでした。
ピアスの忘れ物に気が付いた哲雄は、園子を追いかけて駅まで向かいます。
そして、忘れ物を届けると哲雄は園子に告白。園子も想いに応え、めでたく付き合うことになったのです。
しかし、出会った際についた「医療用の人工乳房を作っている」という嘘は、未だに真実を打ち明けられずにいました。
見かねた相川は伝えてやるといい、園子を含めた3人で飲み会を開催。
園子は価値のある仕事に関われて良かったと信じている様子で、2人は何も言えずに月日が経過するばかりでした。
園子の型取りをした乳房はラブドールの幸子に採用され、大ヒット。未だ園子には本当のことを言えないまま、哲雄は園子と結婚します。
哲雄と園子はとても幸せでしたが、ラブドールの大ヒットのおかげで多忙な時期が4年間も続きました。
その結果、園子をとても愛しているにも関わらずセックスレスに陥ってしまいます。
作品ができてから4年後。
新たにエラストマーという素材を使用してラブドールの開発に取り組んでいたところ、相川と連絡が取れなくなってしまいます。
見かねた田代が訪ねたところ、相川は孤独死をしていました。家族にも連絡がつかず、葬儀はそのまま執り行われることに。
一方、ラブドールの製作が困難になるかと思われたところで、相川の代わりとなる両角が雇用され一緒に働くことになります。
哲雄を中心に、新商品の開発が行われていたある日。
両角がデータ一式を持ち出して久保田商会を去り、別の会社でエラストマーを使った商品を発売しようとしたのです。
これを知った社長は二番煎じになると発売を見送りますが、哲雄は盗まれたことで悔しさを感じ、その日は飲んで帰ることにしました。
ゲームセンターに行くと、そこにはOLのひろこがいて誘われるがままにカラオケへ。
自宅では園子が待っていますが、その頃からお互いにすれ違うようになっていました。
ある日、帰宅した哲雄は「実家の父の具合が悪いから2、3日実家に戻る」と書いてあるメモを発見。
園子は実家にいると信じていましたが、義母からの電話で嘘に気が付きます。
園子と連絡できないことで気が動転した哲雄は、ひろこと関係を持ってしまうのでした。
その夜、園子は同級生の吉村和也に連れられ、深夜に帰宅。
哲雄にどこにいたのか問われる園子ですが、1週間待ってほしいと哲雄に言います。
哲雄も園子の言葉を信じて1週間待ち、再度同じ質問をしました。
すると、園子は「隠していることはないか」と哲雄に聞きます。
そこで哲雄はようやく医療用の仕事ではなくラブドール職人であること、そして一度浮気したことを告白しました。
園子も、哲雄の重荷になっているのでは…と不安になり、一度だけ浮気したと告げました。
哲雄はそれを聞いても離婚する気はないと伝えますが、園子からは1人になりたいと言われてしまうのです。
園子は離婚届を置いて出ていこうとしますが、哲雄は必死に止めます。
その時、園子は留守にしたことをゆっくり説明し始めました。
園子は胃がんのステージ2で、実家に行くと嘘をついたのは検査入院のためだったこと、家を出ようとしたのは手術のためだったことを打ち明けます。
これから病院で、胃の2/3を切除する手術を控えているというのです。
園子の真相を聞いた哲雄はすぐ病院に付き添い、手術の待ち時間に生前の相川が話したことを思い出しました。
若い頃の相川は玩具メーカーに勤務していて、結婚し娘も生まれて順調な人生でした。
友人と2人で会社を立ち上げたものの、友人に金を持ち逃げされてしまい幸せな生活が一変。
借金を背負わされた相川に愛想をつかし、妻と子は離れていきました。そして、妻は他の男と再婚。
自暴自棄になり暴れた際、お世話になったのが久保田社長で、当時社長は警察官でした。
それ以来、30年もの付き合いだと相川は話してくれました。
他にも、相川が娘に会ったのは30年前に1度だけで、いまは37歳になっていることなど…。そんな話しを思い返していると、園子の手術が終わりました。
手術後、園子は「子どもが産めない、だから離婚してほしい」 と哲雄に言いますが、それでも一緒にいたいと答えます。
そして、2人は仲良く暮らすことを選択しました。
哲雄は、データを盗まれたことをくよくよせず、前向きにいこうを新たな開発を決意します。
寒い冬の、ある日。2人は飛鳥公園のベンチでお弁当を広げていると、老夫婦に話しかけられます。
老夫婦は、公演の桜の枝が酔っ払いに折られ、朽ちていても春には花を咲かせると哲雄と園子に話しました。
そんな話を聞いた頃、園子の体にがんが転移していることが判明。
既にリンパや肝臓にも転移していることが明らかになり、充実した生活を送るようにと医師からアドバイスを受けました。
哲雄が、つなぎのない一体型のラブドールを研究していることを知っている園子は、哲雄に「私の身体を作って」と頼み、弱った体を哲雄に預けます。
哲雄も園子の願いを叶えようと身体を記憶していったのですが、完成が近づく頃の園子は痩せて弱りきっていました。
哲雄も園子の願いを叶えようと身体を記憶していったのですが、完成が近づく頃の園子は痩せて弱りきっていました。
ある夏の日、園子と哲雄が抱き合っている時のことです。
飛鳥公園で出会った老夫婦が連れていた犬の名前は、何だったか話題になります。
思い出せないと笑い合う2人がお互いに好きだと言い合った後、園子はそのまま息を引き取るのでした。
園子を失った哲雄は、園子の願いを叶えるためにラブドールを作ります。
完成した人形でセックスをしようと考え、久保田商会の2階に人形を持っていった哲雄。
そこには、園子がいたように感じました。
その瞬間、老夫婦の犬の名前はゆうこちゃんだと思い出し、そして園子を想いながら涙を流します。
人形はとても出来が良く、“そのこ”という名前で限定100体が発売されました。
史上最高額でしたが、2分程度で完売する大人気のラブドールとなった“そのこ”。
しかし、リアルさを追求しすぎた結果、社長は逮捕されてしまいます。
「3日経ったら帰ってくるから社員旅行にいこう」と言うと、本当に3日後に出所。
帰ってきた社長は、会社のみんなと社員旅行を満喫したのです。
旅行先で社長は、「そのこ2号は摘発されないように作ろう」と語るのでした。
『ロマンスドール』では、哲雄が最後に園子のことを「スケベでいい奥さんだった」と懐かしんでいます。なぜ哲雄はこのような言葉を言ったのか気になるかもしれません。
それは、自分しか園子のすべてを知らないという意味で発した言葉ではないかと考察できます。
病気で弱っている中、何度も2人で体を重ねることを単に性欲で済ませれば「スケベな奥さん」止まりでしょう。
しかし、園子の願いは自分の分身をラブドールで再現してほしいというもの。
何度も哲雄と一緒になることで、忘れないようにリアルに再現してほしいと思っていたのかもしれません。
その気持ちを知っている哲雄は、園子の願いと哲雄に忘れてほしくない気持ちを汲み取って「スケベでいい奥さんだった」と言ったのではないでしょうか。
『ロマンスドール』では、哲雄の浮気相手として登場しているのはひろこです。
哲雄は園子がいなくなったことを理由に浮気をしてしまいますが、園子も同じような理由で同級生と浮気してしまいます。
園子は日頃の寂しさを埋めるために、同窓会で知り合った人と一夜の過ちを犯してしまいます。
哲雄がそのことを責めますが、自分も浮気していることには変わりないのです。
浮気と言いつつも、お互いに一夜限り。浮気相手との継続的なやりとりはありません。
『ロマンスドール』は、ラブドール職人の哲雄と園子の夫婦の愛について描かれていますが、タイトルにはどのような意味が込められているのでしょうか?
考察になりますが、ラブドール職人の哲雄が作り出す人形には自分のロマンスを詰め込んだと想像できます。
ただラブドールを作るのではなく、園子の想いを汲み取って最終的に『そのこ』を誕生させていること。
園子との出会いがラブドールの乳房の型取りだったことなど、様々なことがラブドールをきっかけに起こっています。
また、ラブドール職人だと打ち明けるまでの葛藤やラブドールを通じた様々な感情が含まれていることが、恋から愛まで含まれている=ロマンスになったと考えられます。
そして、哲雄にとって園子が特別なこと、園子との出会いから恋愛が生まれたこと、すべて含めた想いが“ロマンスドール”に込められていると考察できます。
『ロマンスドール』は、主題歌にもこだわりが込められています。主題歌を歌うのは、never young beachというバンド。
『ロマンスドール』のために書き下ろされた『やさしいままで』は、タナダユキさんからのオファーがあって完成したものです。
さらに、メンバーの安部勇磨さんは高橋一生さんの弟であり、兄弟がコラボした作品としても注目されました。
劇中歌の『ららら』もnever young beachの曲なので、気になる方はチェックしてみてください。
今回は『ロマンスドール』のあらすじをネタバレありで紹介してきました。また作品内で気になる点についても考察しています。
美しくも夫婦の形となるラブドールを中心にした内容であり、エッジの効いた作品です。気になる方はU-NEXTで配信されているのでチェックしてみましょう。