21世紀最高峰のSF映画「メッセージ(原題:arrival)」概要
映画「メッセージ」概要
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タイトル:メッセージ(原題:ARRIVAL)
日本公開:2017年5月19日
制作会社:パラマウント映画、フィルムネーション・エンターテインメント、ラバ・ベアー・フィルムズ、21ラップス・エンターテインメント
配給会社:パラマウント映画、エンターテインメント・ワン、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作:「あなたの人生の物語」
受賞歴:第89回アカデミー音響編集賞受賞、第70回英国アカデミー音響賞受賞、2017年度全米脚本家組合脚色賞受賞、第22回放送映画批評家協会SF/ホラー映画賞受賞
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飛来する宇宙船、人類と宇宙人の対面が描かれる「メッセージ」あらすじ(ネタバレなし)
映画「メッセージ」のあらすじ(ネタバレなし)
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世界各地に突如現れた12隻の未確認飛行物体。
人類は未曾有の事態を迎え人々はパニックに陥る。
最愛の娘を失った深い悲しみを抱え続ける言語学者のルイーズは、飛行物体内にいる異形のエイリアンとの会合を果たし、彼らの扱う複雑な文字言語を研究していく。
エイリアンが地球に来た目的が明らかになるとき、ルイーズが知るメッセージとは…?
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原作はテッド・チャン著「あなたの人生の物語」
映画「メッセージ」には、原作小説があります。
タイトルは「あなたの人生の物語」。
小説版の作者であるテッド・チャンは、アメリカにおけるSF小説界の二大賞ヒューゴー賞とネビュラ賞をどちらも受賞したことのある実力派作家です。
大学で物理学とコンピュータ科学を学んでいたこともあってか緻密で論理的な作風が批評家、読者共に高い支持を得ています。
「あなたの人生の物語」ではそんな作者の強みであるロジカルなストーリーが魅力の一作です。
SF映画×ミステリー=哲学!あなたの人生を変えるかもしれない珠玉の一作
本作「メッセージ」では人類と未知の異星人とのファーストコンタクトが描かれるSF映画となっていますが、ただのSF映画と思うことなかれ。
ラストに明らかになる結末は、全ての人に通ずる生きるとは何なのかが問われるヒューマンドラマ的なつくりになっています。
映画「メッセージ」のキャスト・スタッフ情報
映画「メッセージ」キャスト・スタッフ情報
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【監督】
ドゥニ・ヴィルヌーヴ
【脚本】
エリック・ハイセラー
【キャスト】
エイミー・アダムス
ジェレミー・レナー
フォレスト・ウィテカー
マイケル・スタールバーグ
マーク・オブライエン
ツィ・マー
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「メッセージ」のメガホンをとったのは、「灼熱の魂」や「プリズナーズ」などを監督したドゥニ・ヴィルヌーヴ。
人間が生きていく上で生じてしまう一筋縄ではいかない罪や業を描いた作風が多く、登場人物の感情の機微を丁寧に繊細に映し出す点が彼の作品特徴です。
「メッセージ」が公開された年には、あのSF映画の金字塔と呼ばれる「ブレードランナー」の続編「ブレードランナー2049」も監督を担当し注目されました。
直近では2021年10月15日に公開された大作SF映画「DUNE/砂の惑星」の監督も務めています。
こちらもSF小説の金字塔とも言われる原作本を映像化した作品であり、そのメガホンを任されているドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は今最も知名度と実力を兼ね備えた人物と言えるでしょう。
そんなドゥニ・ヴィルヌーヴの監督作品「メッセージ」で主役ルイーズに抜擢されたのは、ディズニー映画「魔法にかけられて」でプリンス役を演じ、スーパーマンの実写映画「マン・オブ・スティール」でヒロイン役を演じたエイミー・アダムス。
最愛の娘を亡くし失意の底にいるルイーズが異星人と対話していくという難しい役を見事に演じ切りました。
そんなルイーズの研究をサポートする物理学者イアンは、マーベル映画「アベンジャーズ」で活躍するヒーロー、ホークアイ役も演じているジェレミー・レナー。
名だたる名優さんたちが物語の静かな緊迫感を表現しているのも、見どころの一つとなっています!
難しい?アカデミーも受賞した映画「メッセージ」の評判や口コミ
アカデミー賞や名だたる映画賞を受賞している映画「メッセージ」は、鑑賞した方からも絶賛の口コミが多くあります。
「君の名は。」や「天気の子」で有名な新海誠監督も映画「メッセージ」について、絶賛しているツイートも発見しました!
その反面で、映画「メッセージ」には「難しい…」「よくわからなかった」という口コミも多くあり難解な映画と銘打たれている側面も。
確かに映画を一度見ただけだとわかりづらい描写も多くある作品になっている印象です。
記事の後半では、わかりづらかった部分を解説&考察してまとめましたのでぜひご覧になってみてくださいね!
映画「メッセージ」が視聴できる動画配信サービス
映画「メッセージ」が視聴できる動画配信サービスは以下の通り。
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映画「メッセージ」を視聴可能な動画配信サービス
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Netflix
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映画「メッセージ」ネタバレあらすじ
解説に入る前に、一旦メッセージの物語をおさらいします。
話の内容がわかるという方は、次項目の考察ページをご覧ください!
ここからは物語の核心部分に触れるので、未だ鑑賞していない方はネタバレ注意となります。
※↓ネタバレ注意↓※↓ネタバレ注意↓※↓ネタバレ注意↓※↓ネタバレ注意↓※
【起】言語学者のルイーズは最愛の娘ハンナを亡くす
言語学者であるルイーズは最愛の娘ハンナとの時間を思い返す日々を過ごしていた。
夫と子供を作ると約束した時、ハンナが生まれた瞬間、野原でカウボーイごっこを楽しそうにする幼少期、寝る前に「大好き」と言われる夜、「大嫌い」と言われた反抗期、ハンナが病だと宣告された時、そしてその病によって亡くなってしまったこと。
深い悲しみを抱えるルイーズは太陽のような思い出がフラッシュバックしながら、永遠と続く暗く冷たい廊下を歩いているかのように孤独に生きていた。
そんなルイーズにある転機が訪れる。
突如世界各地に巨大な未確認飛行物体が現れたのだ。
世界中の無作為な場所に現れた12隻の飛行物体は全て静止を続け、出現場所にとどまり続けていた。
目的のわからない謎の宇宙船の出現に、人々は怯え暴動が起きる地域もしばしば。
人類は混乱を極めていた。
【承】謎の飛行物体とヘプタポッドとの会合
飛行物体の出現から翌日、ルイーズのもとに軍人ウェバー大佐が訪れる。
飛行物体内部にいる未知の生物の肉声の録音を聞かされたルイーズはウェバー大佐との交渉の末、飛行物体のある現地での調査に参加することに。
未曾有の事態に呼ばれた物理学者のイアン・ドネリーと共にルイーズは未知の生物の目的を知るために接触を図る。
言語学者としての経験を生かし文字を使って意思疎通ができないかと考えたルイーズは、2体のエイリアンたちが使う図形のような不思議な文字を引き出すことに成功する。
7本の足を持っていることからヘプタポッド(七本脚)と呼称されたエイリアンたちには、それぞれアボットとコステロという固有名詞が名づけられた。
彼らの文字は「表語文字(ロゴグラム)」というもので、流線型の円で描かれた細かい波形の組み合わせによって一つの意味を持つ複雑なものであった。
ルイーズたちは明確にヘプタポッドたちの言語を理解するために、彼らとロゴグラムや英単語を用いて会話する研究を進めていく。
これまでになかった新たな言語の解読はルイーズを疲弊させ、娘ハンナとの思い出のフラッシュバックは増大していくのであった。
ルイーズたちや世界各国でヘプタポッドの研究は進んではいるものの、明確な情報が引き出せない現状は続いており進展のないことは世間の混沌を激化させていた。
様々なメディアで飛行物体やヘプタポッドの画像がリークによって取り上げられると、政府への大規模なデモが世界各地で巻き起こり、ヘプタポッドへ攻撃を仕掛けようという過激な思想を動画サイトで拡散するものなども現れ始めた。
そんな中、ヘプタポッドに高圧的なシャン上将率いる中国では麻雀の牌を用いてヘプタポッドと会話をしていることが明らかとなる。
ゲームのような勝敗がつくもので会話をしていることが問題になってしまうと器具したルイーズたちは、不明瞭な部分も多い中「地球に来た目的は?」という質問をアボットとコステロに投げかける。
彼らがロゴグラムで答えた内容は「武器を提供」することであった…。
【転】アボットの死、新たな武器を得たルイーズ
恐ろしい意味にもとれるヘプタポッドの応答は、関係者や各国に不安を与えそれぞれの国は情報の共有を遮断し始めてしまう。
さらに様々なメディアの情報でヘプタポッドに不信感を持っていたマークス大尉は、これを受けヘプタポッドへの危険視を確信し独断でアボットとコステロを爆薬で攻撃。
「武器を提供」するという意味の真意を確かめようとしていたルイーズたちは、強制的にヘプタポッドとの面会を遮られてしまう。
攻撃を受けたヘプタポッドを乗せた飛行物体はそれまで静止していた地上から、遥か上空に移動する。
さらに不信感を強めてしまったことによって中国はヘプタポッドへの宣戦布告を開始。
これに各国も賛同する事態へと発展する。
ヘプタポッドへの対立意識が高まる中、ルイーズとイアンはヘプタポッドが爆撃を受ける前に残した不可解なロゴグラムの解析を急ぐ。
このロゴグラムには世界中に飛来した12隻の情報全てを共有することでヘプタポッドの言う「武器」が提供されるというものであった。
研究に協力的なヘプタポッドたちが争いを生む「武器」を与えるはずがないと違和感を受けるルイーズは、上層部に世界中が結束し争うことなく事態を収束するよう訴えかけるが各国の情報が遮断されている現状それはむなしく却下されてしまう。
会議室で悲観しているルイーズには何故か、ヘプタポッドに呼ばれている感覚に陥る。
外に出てみるとはるか上空にある飛行物体の一部が地上に降り立っていた。
その中に乗ったルイーズは、ヘプタポッドのコステロのもとへたどり着く。
爆撃を受けたアボットは死の過程にあるというコステロは、ルイーズに人類を救うために「武器」を使用するよう伝える。
話の内容がわからないルイーズにコステロは、自分たちが3000年後に人類の手助けが必要になることを知っておりそのために人類に武器を与えることが目的であると言う。
ヘプタポッドは未来を知っていたのであった。
【結】物語は後ろから始まる
戸惑うルイーズが地上に戻ると、飛行物体への攻撃のため拠点への撤退命令が下されていた。
ドネリーから説明を受けている最中にこれまでのフラッシュバックが激しくなるルイーズは、このフラッシュバックがヘプタポッドの言語によって作用されていたことに気づく。
あるフラッシュバックでルイーズは優雅な祝賀会にいる記憶が浮かぶ。
ここでは今まさに宣戦布告をし、ヘプタポッドへの攻撃を最前線で行おうとしている中国のシャン上将が穏やかな様子でルイーズに話しかけていた。
彼が話すには、ルイーズが1年半前にシャン上将に電話をかけ世界を一つにしたというのだ。
電話番号を知らないというルイーズに、シャン上将は携帯を取り出し電話番号を見せ「今知った」と言う。
ルイーズはヘプタポッドと同様に未来を知ることができるようになっていた。
現在のルイーズは野営地にある電話を使ってシャン上将へ連絡をする。
電話がつながっている間にも、ルイーズは祝賀会の記憶が浮かび続ける。
ルイーズが電話で言ったとされるシャン上将の妻が最期に残した言葉を上将から聞いていた。
ルイーズはその言葉を現在のシャン上将に訴えかける。
ルイーズから妻の最期の言葉を聞いたシャン上将は、武装を解除しこれまで得た情報を世界各国に共有することを約束した。
世界中で緊急の速報ニュースが流れ、各国は情報を公表し始める。
ヘプタポッドを乗せた飛行物体はこれを受け空に消えいった。
世界を救ったルイーズは隣にいるイアンと話している。
イアンはルイーズに愛の告白をするが、その間にもルイーズは未来がフラッシュバックを起こしていた。
これからイアンと結ばれること、彼との間にできる子供が最愛の娘ハンナであること、そしてそのハンナが病気で亡くなってしまうこと。
ルイーズがこれまでに抱えていた娘を失うという深い悲しみは、ヘプタポッドの言語を習得し未来を見渡せるようになったことで見ていたこれからの出来事であった。
それでも現在のルイーズはイアンを抱きしめる。
同時にイアンに「子供を作ろうか」と言われる未来でルイーズは「ええ」とも応える。
病気でやせ細った娘ハンナが太陽に照らされながら走っていた。
映画「メッセージ」の考察ポイント8選
ここからは、映画「メッセージ」の結末部分に関する謎などを解説していきます。
見終わった後モヤモヤしてしまった方、一緒に作品の謎を解き明かしていきましょう!
1.矛盾アリ?結末部分で明らかになるヘプタポッドとルイーズの未来視能力
物語のラストで明らかになるルイーズの未来視能力。
これまで、ルイーズが感じていた娘の喪失感や思い出のように見ていたフラッシュバックは全てこの物語の後の出来事であることが明かされました。
しかし、この点には様々な矛盾や疑問点を持った方も多かったのではないでしょうか?
「未来で電話番号を知ったり著作の本を読んで言語を習得したとしたら、パラドックスが起こっていない?」
「未来の出来事をフラッシュバックしていたとしたら、ルイーズ自身の小さいころの記憶ってどうとらえていたの?途中で気づかない?」
これらの疑問と矛盾をスッキリさせるために、この項目では作品における未来視について深堀りして考えてみたいと思います!
結論から申し上げると、未来視と言いましたがルイーズたちは未来を見ているワケではなく同時的認識様式を知覚することができるようになったと考えられます。
筆者は物理学や時間法則に特別詳しいものではありませんので、この作品中での描写をメインに考えていきます!あしからず!
同時的認識様式とは?ヘプタポッドは時間を俯瞰して見ている
まず、ルイーズの同時的認識様式を考える前にその根源であるヘプタポッドについて考えていきましょう。
ヘプタポッドは物語中で明らかになったように3000年後の未来を知っており、その3000年後のために地球に訪れていました。
これはヘプタポッドが未来を見ているともとれますが、彼らにとって時間は流れるものではなく時間という概念が存在しているだけであって過去、現在、未来が全て同一に見られているという状態にあります。
つまりどの時間も俯瞰して見て経験してある状態ということです。
人間にとって時間とは流れがあり、それに逆らって生きていくことはできません。
経験は過去のものであり、思考は現在のもの、そして読むことができない未来という流れが前提として存在するからです。
しかし、ヘプタポッドは正に図で示した時の流れのように時間を俯瞰して一つのくくりとして感じています。
ヘプタポッドにとって時間とは、自分がそこにいるだけでしかなく過去も現在も未来も存在していないのです。
これが同時的認識様式となります。
全てを同時に感じ起こりうる行動をしている。
つまり、映画「メッセージ」における生というものは既に決まったルートがあり一直線に伸びた線のようなものであるということです。
この物語においては、以上の理由からパラドックスが起きないものと考えられているのではないでしょうか。
順序なく時間を経験をしているヘプタポッドには感情がない
同時的認識様式を持つヘプタポッド。
何が起こるか未来で同時に経験しているというのは、人間が考えるうえでかなり不思議な視点です。
おそらくですが、時間の経過を感じない分ヘプタポッドには感情がないのではないでしょうか。
全ての事象を同時的に経験しているヘプタポッドは起こるべくことが起こるという思考を持ち、そのことに関して人間が反応を示す感情という機能はそぎ落とされてしまっているように思います。
物語の中で死亡してしまうヘプタポッドの片割れアボットは爆撃を喰らってしまいます。
劇中で再びアボットは出てくることなく、もう一人のコステロはルイーズに「アボットは死の過程にある」と明言されていました。
同時的認識様式によって先の未来を知っているこのヘプタポッド二人は、この旅でアボットが死んでしまうことも知っており、死亡してしまうことを確定づけるような表現が用いられたのではないでしょうか。
また、劇中登場するヘプタポッドは人類の研究に協力的であっても友好的であるようには見えず常に静観を続ける異質な存在でもありました。
時間の概念が異なることから考えられるヘプタポッドの性質は、思っていた以上に複雑で興味深いものであるように思います。
ルイーズはRPGゲームのプレイヤー兼操作キャラ、再鑑賞の映画を見ている人の感覚に近いのでは?
人間として生まれてきたルイーズはヘプタポッドと違い時間の流れを感じることができます。
これによってルイーズは様々な過去現在未来を時間の流れの中で、つまり感情を持ったまま見聞き経験することができる人間となりました。
そんなルイーズはラストシーンの会話でイアンと以下のやり取りを行います。
ルイーズ「この先の人生が見えたら 選択肢を変える?」
イアン「自分の気持ちをもっと相手に伝えるかも」
ルイーズはもちろん同時的認識様式を知覚できるようになっているのでイアンがこの質問をしたとき、なんと応えるのかを知っていました。
しかし、イアンのこの人生の核心をついたかのような言葉にルイーズは同時的認識様式を持った心に深く刻まれることになったのではないかと思います。
ルイーズの同時的認識様式の見え方は、通常の人間の感覚でいうと何度も映画を見返している感覚に近いのではないでしょうか。
何度も見返す映画は、その物語や結末、繰り返し見ることによって演出表現やセリフ回しなどを覚えてしまったとしても感動したり、改めて好きな映画だなぁと思うことがありませんか?
ここのシーンはこういう意味だったのかな?
こういう風につながってラストの結末に深みがもたらされているのか!
という風に新たに気づきがあるなんてことも、よくある経験です。
感情を持ち同時的認識様式を持つルイーズはこの何百倍もの自分のシーンの一つ一つを、何百倍も経験し噛みしめて一瞬一瞬を生きていくことにしたのではないかと思います。
さらに、先ほど説明したようにヘプタポッドの同時的認識様式は俯瞰で出来事を感じています。
それは、RPGゲームに感情移入するような感覚に近いのではないかと思いました。
ゲームに登場する操作キャラは自分自身ではありません。
しかし、そのキャラクターを自身に反映することで強敵を倒したときの達成感が得られますね。
RPGのようなゲームは元々世界を救うというようなストーリーが設定されていてプレイヤーはそれを知ったうえでプレイします。
クリアすることはその目的を知ったうえで進んでいくだけですがその上でも達成感が得られるのは、自身がプレイヤーでもありながら操作しているキャラクターに思い入れが湧いてくることのなのではないでしょうか。
映画「メッセージ」を見終わった後こう感じた方はいませんでしたか?
「自分より早く死んでしまう娘を生むことを知っているなんて自分じゃ耐えられない…」
筆者も初鑑賞の際は、ルイーズがとった行動は決まっていたものだとはわかっていても辛すぎる運命に「自分じゃ絶対無理!」と思ったのを覚えています。
しかし、何度か見返すうちにルイーズはこのように愛しい娘との出会いを何度も反芻したり俯瞰して物事を見たりすることで決められた出来事が起こるだけというそぎ落とされた感情になるのではなく、より人間らしい豊かな感情を得たのではないかと思いました。
ルイーズが言語を習得する前と後の認識の違いはループ構造になっている
物語の結末部分でこれまで悩まされていた娘との思い出のフラッシュバックが、未来の出来事だと知るルイーズですが、この構造はループにもなっています。
その理由はルイーズにおける二つの出来事が引き金になります。
一つ目は、ルイーズが言語を習得すること。
ルイーズは映画終盤でヘプタポッドの「武器」が未来を見ることであるということを知り、元々同時的認識様式を持っていたルイーズ(未来の出来事をフラッシュバックで見ていたこと)はその能力を使って未来で自分が執筆した「ヘプタポッドの言語」という本を読むシーンです。
これによってルイーズは、自身の人生が全ての時世に干渉を受けていることを知ります。
二つ目は、未来でハンナを失ったことから深い喪失感を得たタイミング。
娘を失うことを知っている上でたどり着いてしまったこの出来事は、その悲しみを背負ったままヘプタポッドと会合する過去の経験へと錯綜していきます。
前項で紹介したように、これはルイーズが過去へタイムリープしているというものではなく、過去の出来事と未来の出来事が全て同時進行して経験していることになりますので過去や未来を変えることはできません。
だからこそ、通常の人間の感覚でいえば今回の映画と同様の物語を何度も何度も経験していると言えます。
変えられない結末を感情に左右されながら生きていく、というのは酷なものだと感じてしまいますが、全てを理解したラストシーンでのルイーズは愛しい時間を一秒一秒を噛みしめている…そんな表情に見えました。
2.言葉が武器?言語学から考える「メッセージ」
「メッセージ」はSF映画でありながらも、日常あまりにも自然に使う「言語」を起点に展開される非常にユニークな映画でした。
この項目では、作中に登場した言語の仮説や物語構造にも注目して考察していきます。
ヘプタポッドの文字「表語文字(ロゴグラム)」
アイコニックかつ物語で重要なカギとなる、ヘプタポッドが扱う文字「ロゴグラム」。
ヘプタポッドが噴出する黒い墨のようなものから一瞬で構築され、その一文字の微妙な波形の違いから意味が構築されているというかなり複雑な文字でした。
人間の感覚でいうところ、道路標識やピクトグラムなどが似ている要素を持つ文字。
道路標識は文字を使わずとも「駐車禁止」や「進入禁止」などが一目でわかりますし、ピクトグラムは実際のスポーツを連想させるアイコンを表示させることで意味が伝わる仕組みになっています。
ヘプタポッドはこのような標記的な文字で全ての意図が伝わるような言語として完成されているのがスゴイところ。
少し学んでみたいかも…と思いますが、未来を知ってしまうのは怖いですね…笑
また、ロゴグラムは一文字で意図が伝わることから文字を読ませるスペースを必要としないことと一瞬で描かれることから時世を必要としないことも注目ポイント。
これらの要素は、ヘプタポッドが時の流れを持たない生物であることが表されています。
基本的に円を主体としている文字なのも、全てを表すという意味やルイーズの人生が円環するサイクル上になっていることを表しているように感じました。
言語に思考が左右される?サピア=ウォーフの仮説
劇中で、ルイーズとイアンの会話にて登場した「サピア=ウォーフの仮説」。
これは、実際にある言語は人の思考や認識に影響を与えるという説です。
世界中には様々な言語がありますが、その文法は言語によっても様々。
こういった観点から思考することは言語を用いることであり、その言語を用いることは思考にも直接的に影響するのではないかという仮説になります。
例えば、私たち日本人は基本的に文章の末尾に動詞を付け加えることで主語が何をしているのかが表現されます。
しかし、英語は主語の次に動詞が配置される言語です。
この二つの言語で同じ文章を言いたかったとすると、
私は、私の友達と話します。
I talk to my friend.
となり最後に何をしたかを話す日本語と、先に結論付けづけてから誰としゃべったかを説明する英語という違いが生まれます。
この文章の組み立て方の違いによって思考が影響されるのだとか。
就活面接で「先に結論から言いなさい!」と口酸っぱく講演で言われたことがありますが、最後に結論をつける日本語文法的には至難の業なのかもしれませんね…笑
映画「メッセージ」では、ヘプタポッドの時の影響を受けないロゴグラムを習得したルイーズが彼らの思考と同様に物事の未来を見れる同時的認識様式を知覚することができるようになったと表現されていました。
言語の違いが争いを生む「バベルの塔」的構造
宇宙人と言語での会話をするという「メッセージ」では、言語と言語の違いから食い違いが生まれるというシーンがいくつか登場しました。
ヘプタポッドが地球に来た目的は、ルイーズ達によって「武器の提供」と訳されていましたが、実際は言語を習得させることでした。
ヘプタポッドの言語を習得するということは、未来を見据えられるようになるという意味も含みに人類にとって新たな概念であることに変わりはないので、「武器」という意味もあながち間違いではありません。
このように言語間でのニュアンスの違い、また前項で紹介した「サピア=ウォーフの仮説」のように言語によって思考が異なるのであればいかに優秀な翻訳家がいたとしても本当の意味での意思の疎通は難しいのかもしれません。
これは、宇宙人に関わらず人間同士にも言えるシーンがメッセージ全体のテーマとして表現されているように思います。
「メッセージ」終盤の展開では、ヘプタポッドの正体不明の「武器」が戦争を引き起こしてしまうのではないかと恐れた各国は自国の情報を一切他国に共有することを止めてしまいました。
この展開には、宇宙人という異形の存在の研究のために世界中の国々が協力をしていたにも関わらずいざ戦争や争いという言葉がちらつくと、自国の利益を優先して考えてしまう事態に発展してしまうことが表現されていると感じました。
原作小説を手がけたテッド・チャンは、全ての人々が共通の言語を持っていたとされる時代から神の手によって言語を分けられてしまう神話「バベルの塔」に影響された「バビロンの塔」という物語も執筆しており、人と人との間に生まれるコミュニケーションの難しさを説いているのではないでしょうか。
3.散りばめられた伏線の数々
衝撃的なラストが描かれた「メッセージ」でしたが、作中には結末部分を予感させるいくつかのシーンが登場しました。
非ゼロ和ゲーム
非ゼロ和ゲームとは、経済理論の一つ。
簡単に言い換えるとどちらもが勝者するというウィンウィンな関係です。
ルイーズが政府との会議中にイアンが発した言葉でしたが、これを聞いたルイーズはその後の未来でこの言葉をド忘れしてしまったハンナに教えるというシーンが描かれました。
回想シーンのように描かれたシーンでしたが、実際はルイーズが過去イアンが「非ゼロ和ゲーム」と言っていた場面を辿り未来でハンナに伝えていたシーンとなっています。
また、この非ゼロ和ゲームが双方が勝利するという言葉である点はヘプタポッドが提供する武器というものが人類を救い、その結果ヘプタポッドの3000年後の未来をも救うという意味になっているのも面白い点です。
中国語で伝えられた「妻の最後の言葉」の意味
シャン上将に電話で妻の最後の言葉を伝え、世界を救ったルイーズでしたがここでは未来の祝賀会でシャン上将と出会ったルイーズが電話番号と言うべき言葉を伝えられていました。
このシーンでは、実際に中国語で喋ったシーンがありますが字幕などがなく何と言っていたのかわかりませんでした。
日本語であの中国を直訳すると、「将軍、戦争に勝利はなく残るのは孤児と未亡人だけ」という意味になるそうです。
交戦状態まっただ中にあったシャン上将にこの言葉をかけたことが近い未来、世界中の人々が集まる祝賀会につながっていきます。
4.3000年後の未来、人類はどのようにヘプタポッドを救うのか?
3000年後の未来で人類の助けが必要となると言っていたヘプタポッド。
しかし、3000年後とはいえ未来を知ることができ人類より高度なテクノロジーを持っていそうなヘプタポッドをどうやって人類は助けるのでしょうか。
筆者が感じたのは時間の流れのないヘプタポッドによって時間を超える概念を与えられたということは、3000年後時間の流れを持ちながら時間を超える概念を持った人類がヘプタポッドに感情をもたらすのではないかということです。
前項でも紹介したようにヘプタポッドには思考する能力はあっても時間の流れがない分何かに対する反応、感情が抜け落ちているように感じます。
3000年後の未来では感情の欠落から、ヘプタポッドたちの生存が危ぶまれる事態に発展するのではないでしょうか。
そんな時同時的認識様式を時間の流れによって感じられるようになった人類は、より豊かな感情を持って生きることの素晴らしさをヘプタポッドに教える、こう考えるとヘプタポッドが今回地球に飛来した目的と合致するのではないかと思います。
5.映画のループ的構造はルイーズの娘ハンナがカギ
ルイーズの娘、ハンナはルイーズのフラッシュバックでしか登場せず、謎めいた人物です。
彼女に注目して物語を紐解きましょう!
回文で表されている名前「ハンナ(hannah)」
ハンナのスペルはhannah。
これは、前から読んでも後ろから読んでもhannahとなり回文になっています。
ルイーズの人生は、ヘプタポッドの言語を習得したことによってハンナが生まれる前も生まれた後も常に彼女が思い起こされるようになっています。
ヘプタポッドと出会ったことによって生まれることになったハンナ、そして親のルイーズよりも早く死んでしまうことになった運命、そこからヘプタポッドとの出会いに戻るルイーズ。
ルイーズのループ状の人生は正に、前から始まったとしても後ろから始まったとしてもハンナに表されるようになっています。
原作小説のタイトルが「あなたの人生の物語」であることにも納得です。
ハンナもルイーズと同じ能力を持っていた?
ルイーズのフラッシュバックシーンでしか登場しないハンナですが、登場シーンには意味深な描写が数多くあります。
ハンナが何気なくルイーズと話しているシーンは、ルイーズがこの先の未来の出来事であると気づくシーンや、人類とヘプタポッドの着地地点である「非ゼロ和ゲーム」をほのめかすなど…。
その中でも特に取り上げたいのは、ハンナが作り出す絵や粘土の作品がヘプタポッドと会合しているルイーズ達を描いているということです。
ハンナが気づいているのは明らかになっていませんが、おそらくハンナにもルイーズと同様に同時的認識様式によって世界が見えている可能性があります。
この場合の同時的認識様式は、ハンナが生まれる前の出来事なのでルイーズよりもさらに多くのことを見渡せる人物なのではないでしょうか。
自分の死を知っているか定かではありませんが、過去と未来を乗り越えてもな親子の絆が描かれるというのは涙なしでは見られません…。
6.原作小説「あなたの人生の物語」との違い
原作小説「あなたの人生の物語」と本作「メッセージ」を比べると大きな違いが3点ほど描かれます。
一つは、ハンナの死因が異なること。
劇中では難病にかかったことが死因となっていましたが、原作小説では山登りでの事故が死因となっています。
二つ目は各国との絡みがほとんどないということです。
終盤大きく物語の命運をかけられる各国との情報遮断などのエピソードは小説版にはなく、オリジナルの展開となっています。
三つ目は、ヘプタポッドの言語に関する解説が詳細になっている点。
これら3つ全てに言えることは、メディア媒体の違いによる構成の違いだと感じました。
映画「メッセージ」の結末は衝撃的で感情に響く余韻がありますが、小説版の読み味はロジカルに物事が考えられ丁寧な読み味になっているという印象を感じました。
どちらにしても独特の余韻があるので、映画を読んで結局理解できないや…?と思った方は小説版を読んでみるといいかもしれません!
短編で読みやすいのでオススメです!
7.原題「arrival」と邦題「メッセージ」タイトルの違いによる解釈
今作「メッセージ」というタイトルは日本でのタイトルであり、原題は「arrival(到着)」となっています。
これらの意味の違いを結末部分を踏まえて考えると、面白い考察が浮かび上がってきます。
原題の到着を表すarrivalは、結末部分から考察するに物語の冒頭部分であり結末部分=ハンナとのお別れシーンにたどり着いたという意味なのではないでしょうか。
これは物語全体の内容が、全てラストシーンのために用意されたものでありたどり着いた結末という印象を強く受けます。
しかし、邦題の「メッセージ」はどちらかというと鑑賞後にルイーズの結末を受けてあなたはどんなメッセージを受け取ったのかと考えさせられるようなタイトルとなっており、物語はまだ完結していないこの作品のメッセージをあなたはどうとらえたのか?という部分に重点をおいているように感じます。
物語のラスト部分に強い印象を与える原題、ラストシーンを見てどう考えるかが問いかけられる邦題、あなたはどちらの方がこの映画に相応しいと感じましたか?
小説版「あなたの人生の物語」も含めて3タイトル。
タイトルから作品の意味を深めてみるのも面白いかもしれません。
映画「メッセージ」ネタバレ解説記事まとめ
SF映画「メッセージ」について解説していきました。
最後に記事をまとめていきます。
映画「メッセージ」見どころ
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地球に飛来した謎の飛行物体と人類との会合を描くSF映画
SF映画ながらも人間とは何か?が深く追求されたドラマ性の高い作品
アカデミー賞や様々な賞を受賞している評価の高い作品
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映画「メッセージ」あらすじ
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娘を亡くし深く悲しんでいるルイーズは、宇宙船でエイリアンとの会合を果たす
言語学者のルイーズはヘプタポッドとの会話の研究をイアンと共に進めてい
ルイーズはヘプタポッドの言語を習得して未来を見渡せるようになる
ルイーズが娘を亡くした出来事は、ヘプタポッドの言語を理解して見ていた未来の出来事であった
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映画「メッセージ」考察部分
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ルイーズの未来視は未来が見えるというよりも、人生の全てを同時に味わっている同時的認識様式
3000年後、ヘプタポッドは人類に感情を持つことの素晴らしさを教えられるのではないか
時間の流れを感じることができる映画という媒体で表現された究極の時系列トリック
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人間にとって時間とは何か?人生とは何か?が問われる名作「メッセージ」。
見た人によって様々なメッセージを感じること間違いなしです。
見返すたびに新たな発見があることも楽しめるはず。
ぜひ、何度も後ろから始まる物語をお楽しみください!