2006年11月に公開された『パプリカ』は、AKIRAや千と千尋の神隠しなどと同じく傑作日本映画に選ばれたアニメ映画です。他人の夢に介入できる装置を巡り、悪夢から抜け出すまでのストーリーを描いた作品は狂気すら感じますが、独特の世界観から人気があります。
そんなパプリカにはどのような魅力があるのでしょうか?今回はあらすじや登場人物、見どころなどネタバレありで解説していきます。パプリカという作品に興味がある方は、ぜひ最後まで一読ください。
更新日:2021-7-2
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2006年11月に公開された『パプリカ』は、AKIRAや千と千尋の神隠しなどと同じく傑作日本映画に選ばれたアニメ映画です。他人の夢に介入できる装置を巡り、悪夢から抜け出すまでのストーリーを描いた作品は狂気すら感じますが、独特の世界観から人気があります。
そんなパプリカにはどのような魅力があるのでしょうか?今回はあらすじや登場人物、見どころなどネタバレありで解説していきます。パプリカという作品に興味がある方は、ぜひ最後まで一読ください。
パプリカがどんな作品なのか、簡単に概要とあらすじからご紹介します。
映画『パプリカ』は筒井康隆が執筆した同タイトルの長編SF小説が原作で、今敏がメガホンを取りました。この作品は映像化が不可能とも言われていましたが、筒井氏と今氏が対談をきっかけに実現しました。
第63回ヴェネツィア国際映画祭では、コンペティション部門に正式出品されています。さらに、animecs TIFF 2006ではオープニング上映作品に選ばれました。
今氏は次回作として『夢見る機械』の制作に着手したものの、末期の膵臓癌を患い、2010年8月に逝去しました。そのため、パプリカは今氏の遺作でもあります。
物語の舞台は、他者の夢・意識に介入して、精神疾患を治療する技術(サイコセラピー)が生み出されている近未来です。主人公の千葉敦子は精神医療総合研究所に努め、サイコセラピー治療の研究を行っています。そして、メンタル面に問題を持ち、世間にそのことを周知されては困る人々を対象に、「パプリカ」という名前を使って治療も行っていました。
そんなある日、敦子が夢に介入する際に使用する「DCミニ」が何者かに3つも盗まれる事件が起きました。盗まれたDCは悪用され、所長の島を始め、研究員が発狂する事件が発生します。
DCミニの盗難騒動が大きくなり、とうとう警察が研究所の捜査を始めます。一方、事態を重く見た敦子も仲間と共に犯人を追いますが、とうとう現実世界にも夢の影響が出始めるのでした。
作中では主人公の千葉敦子・パプリカを始め、様々な人物が登場するので主要キャラをご紹介していきます。
精神医療総合研究所に勤務する精神科医で、最先端の技術を精神医療に用いる研究を行う優秀な研究員です。理論的な思考を持つ人で、自分の気持ちを抑え込んでしまう部分があります。そんな性格であるため、時田に対する気持ちにも気付かないふりをしています。
研究の傍ら、敦子とは真逆の人格を持つ「パプリカ」として、サイコセラピー治療を行っています。パプリカは夢の中で様々な人・姿に変えて、その人の深層心理を見て、悩みの解決に導いてきました。終盤では現実と夢が交じり合い、敦子とパプリカが分離する現象が起きます。
研究所に勤務する研究員の一人です。肥満体型が特徴的ですが、DCミニの開発に関わる天才研究員でもあります。敦子に好意を持っており、彼女を「あっちゃん」と呼んでいます。
天才肌なゆえに、同じくDCミニの開発に関わる氷室や小山内に嫉妬の念を抱かれています。しかし、時田自身は他者の嫉妬などの感情を理解できないところがあります。
研究所の所長を務める人物で、DCミニの開発担当責任者です。序盤では盗難されたDCミニにより発狂させられ、飛び降りて大ケガを負って昏睡状態になります。その後、パプリカの手により覚醒します。その後は敦子のサポートに回り、犯人を追っていきます。
研究所の職員で、序盤は敦子や時田と一緒に行動をしますが、乾と主従関係にありました。敦子に好意を持っており、敦子が捕まった時の処遇に対して乾と対立します。その隙を見て敦子は刑事の粉川に救われ、敦子を奪い返そうとした際に夢の中で銃撃されて倒れてしまいました。
精神医療総合研究所で理事長を務める人物です。DCミニの盗難被害後、開発を凍結すると発言したことで敦子と対立します。その一方で野心を持っており、小山内を駒に暗躍していました。
下半身不随であるため、常に車椅子を使い移動しています。それゆえに、自由な体を求めている節があります。
パプリカは夢と現実が入り乱れ、ストーリーがよく分からないという声もありますが、独特の世界観に心を奪われてしまう作品となっています。ここからはネタバレありで、作中の気になる部分や魅力を解説していきましょう。
ストーリーはDCミニが盗まれたことから発展していきます。まずはDCミニとは何か、また作中で現実世界に与えた影響などについて見ていきましょう。
時田により開発された他者の夢を共有し、意識の中に入れる装置のことです。流線形の装置は眠り草をモチーフにしているそうです。また、DCとは「ダイダロスコレクター」を略した言葉で、ギリシャ神話に出てくるダイダロスという発明家が由来となっています。
敦子は夢の入ることで深層心理から悩みの現況を見つけ、解決に導いていきます。精神医療としては画期的な技術です。しかし、DCミニの製造に危機感を持つ人物がいました。
それは、研究所の理事長である乾です。DCミニの盗難後、乾は開発の凍結を宣言します。作中では「直に夢に触れることは暴力にさえつながる」「作るべきではなかった」と語っており、悪用を危惧し、騒動を抑えるための判断でした。しかし、製造に反対する理由はそれだけではないようです。
DCミニは開発段階であるため、セキュリティに問題がありました。装置があれば誰の夢にも入り込み、精神崩壊を起こさせることができます。作中では島所長が突然発狂し、他の研究員も被害を受けています。
さらに物語終盤では、とうとう夢と現実が交じり合ってしまう事態が起きました。特に印象深いのは、街中で宗教的なものや冷蔵庫、自転車など様々なものがパレードするシーンです。サラリーマンの集団自殺のシーンから始まり、途中でパレードを見ていた人が歌い出し、姿を変えてパレードに混ざっていく姿はとても異様です。
どうして現実世界に夢が現れたのかというと、DCミニを悪用して様々な人の悪夢を共有させてしまったためです。本来の夢は1人が見るものですが、色々な人の悪夢をDCミニに共有させたことで、たくさんの人の夢がつながって混在する事態になってしまいました。その結果、夢と現実の均衡が崩れて夢が現実へと侵入することになったのです。
元々、DCミニは開発段階の技術です。現実世界に夢が現れるという現象は、技術の間違った使い方によって引き起こされたバグや不具合とも言えます。
夢の中に囚われた島所長を救うために、敦子たちは夢を確認します。その際、氷室に姿があったことから、DCミニを盗んだ犯人は氷室だと考えます。
時田の助手である氷室の姿を確認でき、DCミニを盗んだのは氷室だと特定しました。島所長の救出と並行して氷室の捜索を始め、敦子は時田が着用していた服からヒントを得て氷室の居場所が遊園地だということを特定します。
氷室に元に向かうものの、彼もすでに悪夢を見せられて意識を奪われている状態でした。時田の才能に嫉妬する氷室に真犯人は目を付け、DCミニを独占するために氷室を始め、開発関係者にパレードの悪夢(統合失調症患者が見る夢)を見せて意識を捉えていたのです。
主人公である敦子と別人格のパプリカの存在もこの映画の魅力と言えます。黒髪の敦子は見た目通り冷静沈着で物事を理論的に考える女性です。一方、パプリカは赤い髪色のように明るく活発な印象のある女性で、敦子とは対照的です。
どうして敦子はパプリカの人格でサイコセラピーをやっているのかは、作中では明らかになっていません。極秘でセラピーを行っているのでそれを隠すためとも考えられますが、パプリカは普段から気持ちを抑え込んでいる敦子が理想とする姿ではないかというファンの考察は多いです。
事件をきっかけに、敦子はパプリカの性格に近付いたと考えられます。終盤では黒幕を追うことよりも、ロボットとなり暴走する時田を救うことを優先し、最終的には時田と相思相愛となりました。この結果から見て、理論派だった敦子は気持ちに素直になる大切さを知り、成長できたのだと考えられます。
粉川利美は島所長と同級生であり、作中の事件を追う刑事です。不安神経症に悩まされており、物語の冒頭は粉川のセラピーから始まります。パプリカはDCミニが盗まれた事件の解決と同時に、粉川がトラウマを克服するまでのドラマでもあったのです。
そんな粉川のトラウマとその原因のネタバレと共に、トラウマを克服する際に発したセリフの意味を解説していきます。
パプリカの冒頭はサーカス会場から始まります。粉川はパプリカと共に犯人を逮捕するために、サーカス会場に潜り込んでいました。しかし、粉川は舞台の檻の中に移動させられ、自分と同じ顔の観客に襲われます。
すぐに舞台は変わり、今度は粉川とパプリカがターザンに扮し、森の中を駆け巡ります。その後も『ローマの休日』など映画のワンシーンを再現するように舞台へ変化していきます。
粉川の見る悪夢は決まって「未解決の殺人事件」か「以前に見た映画のワンシーン」、「過去の自分が撮影していた映画」の内容でした。不安神経症の原因は、未解決の殺人事件だと考えていました。しかし、実際には異なる潜在意識が悪夢の原因となっていたのです。
パプリカと悪夢を分析する中で、粉川は違和感を持ちました。彼のトラウマは殺人事件として再現されていますが、射殺された被害者も逃げる犯人も自分自身の顔であることに気付いたのです。
夢の中ではいつも犯人を追わずに止まった状態でした。これは、映画監督の夢を追えなかった粉川自身のことを指し、夢を中途半端に投げ出したことへの苦しみが殺人シーンとして投影されていたのです。
粉川は敦子に映画は嫌いだと発言しています。しかし、映画のワンシーンが犯人を追う中で出てくる理由は、映画が好きだという本心でした。
粉川は早逝した相棒の「あいつ」と作っていた映画の製作を投げ出したことに後悔していました。しかし、そもそも「あいつ」が存在していたのかどうかも、怪しく感じてきました。
そして自問自答したところ、「あいつ」の正体が夢を追う自分自身だと気付きます。正体に気付いた粉川は夢の中で殺人事件の犯人を射殺し、トラウマの克服に至りました。
事件の解決後、粉川は「あいつ」を発見します。その際、「嘘から出た真じゃないか」という言葉をかけられ、粉川も「嘘も真もな」という言葉を返しました。
自主制作していた映画では粉川が刑事役をやっており、監督を諦めた今は刑事になっています。「嘘から出た真」とは、違う形であるものの、過去の自分との約束を果たしたことを意味しているのでしょう。
そして、粉川が返した言葉の意味は、嘘(夢)も現実と同じぐらいに大切だという意味が込められています。そのことに気付いた粉川は映画監督になれなかった自分を責めるのを止めて、トラウマの克服に至ったのです。
小山内と乾理事長は作中で主従関係がありました。原作で2人は肉体関係を持っていることが分かり、映画でもダイレクトな表現はないものの、関係性を察する表現が見受けられます。
どうして小山内は理事長側に付いているのかというと、好意を抱いている敦子を手に入れるためです。本心から乾を慕っていたのではなく、乾の目的は小山内の目的にも合致する部分があったため、目的のためなら自分の体や手を汚すことを惜しまなかったのです。
パプリカには原作となる小説、さらに原作ベースの漫画があります。しかし、映画は原作や漫画とは設定が大きく異なっているようです。
原作では島所長が理事長、乾理事長は副理事長でした。さらに、サイコセラピーの研究は原作だと公表されています。しかし、映画では公表されておらず、研究段階となっていました。
他にも原作では敦子が時田に持つ感情がもっと明確に描かれています。しかし、映画ではサイコSFの要素を強めるためか、恋愛感情の描写はかなり控えめです。原作ではやや過激な表現も見られますが、映画は全体的に抑えられている印象です。
設定や雰囲気は原作と映画では大きな違いがあります。気になる方は映画だけではなく、原作や漫画の方もチェックしてみましょう。
パプリカの感想をネットで検索すると「やばい」や「気持ち悪い」といった声があります。しかし、これは批判的な意味ではなく、狂気すら作品の魅力だというポジティブな内容ばかりでした。
ストーリー的にも面白いアニメ映画ですが、他にも魅力的だと感じる部分が色々あります。その1つは映像美です。パレードシーンはCGではないのに、なめらかな動きが印象的です。悪夢なので不気味さがありますが、色鮮やかな表現に思わず見入ってしまいます。
さらにパプリカの世界観を際立たせるのが音楽の存在です。作中のほとんどの音楽は平沢進さんが手がけました。摩訶奇怪な曲から爽やかさを感じる曲まで、多彩なサウンドを楽しめます。また、一部の曲は平沢さんの曲を逆再生させたイントロやアレンジが使われています。
そして、キャラクターに息を吹き込んでいる声優陣も見どころです。敦子・パプリカの声はエヴァンゲリオンシリーズの綾波レイなどで知られる林原めぐみさんが務めています。他にも古谷徹や大塚明夫、山寺宏一などベテラン声優陣がキャスティングされています。
さらに、監督の今氏と原作者の筒井氏も夢の世界にいるバーテンダーの声を当てているので、ぜひ本編で確認してみてください。
今回はアニメ映画『パプリカ』のネタバレを解説していきました。精神治療を行うための技術を巡って事件を追うストーリーとなっており、現実と夢が入り乱れる状態を明確に描かれた映像美がとても魅力的です。
見ている人を不安にさせる描写がいくつもありますが、最後には夢と現実はどちらも大切だということを理解できる作品です。世界観とマッチした音楽やベテラン声優の演技にも注目してみてください。
元々、パプリカは関東圏の3館しか公開しておらず、後に44館での上映がスタートしました。そのため、映画のことを後から知らなかった人やリアルタイムで観られなかった人もいるでしょう。パプリカは動画配信サービスにて配信されているので、観てみたい方やもう1度観たい方はぜひ利用してみてください。