菅田将暉さんと有村架純さん主演の映画、『花束みたいな恋をした』は誰もが共感できるような純愛を描いた作品です。その時代や世相を描くようなドラマを手掛けてきた脚本家の坂元裕二さんが、2020年の東京を舞台にして創り上げ、“今”を生きている全ての世代に贈るように書きおろしたものです。
時代を反映する脚本家に加え、多くのヒット映画監督である土井裕泰さんとのタッグも気になるところですが、実力派の2人が魅せるラブストーリーが興味をそそるでしょう。ここでは、『花束みたいな恋をした』の内容をネタバレ込みで紹介していきます。
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『花束みたいな恋をした』のあらすじ
映画、『花束みたいな恋をした』は、だれもが共感できるラブストーリーがテーマとなっています。これまで、その当時の世相を反映するようなストーリーを手掛けてきた脚本家・坂元裕二さんが書き下ろした作品です。
坂元裕二さんは、90年代の代表的存在である恋愛ドラマ「東京ラブストーリー」、現代を生きる女性をテーマとした「Mother」などを手掛けています。心情を表現するのが得意な脚本家で、恋愛ドラマだけでなく、離婚の在り方や家族について描いた「最高の離婚」も人気の作品です。
監督を担っているのは、ベストセラー小説を美しくも感動的なファンタジー作品に仕上げた「いま、会いにゆきます」や「映画 ビリギャル」を送り出した土井裕泰さんです。この2人のタッグは、ドラマ「カルテット」以来であり、映画では初となります。
『花束みたいな恋をした』のあらすじですが、“偶然”から始まる恋愛映画です。東京・京王線の明大前駅で終電を逃した山音麦(菅田将暉)、八谷絹(有村架純)は、趣味や好みが嘘のようにピッタリ合ったことをきっかけに自然と恋に落ちてしまいます。
大学卒業後、2人は同棲を始めます。麦はイラストレーター、絹はアルバイトで生計を立て、近所にお気に入りのパン屋を見つけたり、拾った猫に名前をつけたり、普通のカップルと同じように何気ない日常を送っていました。
渋谷パルコの閉店、スマスマの最終回、どのようなことがあってもお互いの歩調が変わることなく前に進んでいました。
しかし、生活苦から麦と絹は将来を見据えて社会人になることを決め、仕事に励むようになりました。
絹は2人の時間を大事に持ちたいという想いがあったのですが、これがきっかけで歩幅にズレが生じてしまいました。これまで価値観が驚くほど同じだったのに、ズレがどんどん大きくなってしまったことが別れの選択になってしまったのです。
2人の忘れられない5年間を、自然な形で表現しているのが『花束みたいな恋をした』となります。
『花束みたいな恋をした』のラストシーンで別れてしまった理由とは?
偶然終電を逃した2人が、趣味も考え方も同じなんてなかなかない偶然ですが、その結果は別れとなってしまいました。なぜ、ラストシーンで別れを選んでしまうのでしょうか?
その理由は、以下の通りです。
価値観が変わってしまった
恋人同士、夫婦、家族、どの形であっても価値観がピッタリ合うということはほとんどないでしょう。しかし、この2人は驚くほどに価値観が合い、それがきっかけで恋愛に発展しています。
そんな相性抜群の2人がなぜ破局を迎えてしまったのか、それは社会人になってからお互いの歩調や方向が変わってしまったこともきっかけでしょう。
そもそも麦の夢は、イラストレーターとして活躍することでした。しかし、現実的に難しいことを知った麦は、物流系の会社で営業として働くことになりました。麦は絹と一緒にいたいという気持ちで必死に働いていたのですが、多忙を極めてしまったため、これまで好きだった舞台や小説にも心が反応しなくなってしまったのです。
一方の絹は、2人の時間を大事にしていたい、好きなことをして生きていたいという想いがあり、今までと同じように麦を舞台に誘うなどしていました。しかし、仕事が優先と考えた麦は舞台を断ってしまいます。
将来のため、現実世界にもまれながら生きる麦、今までと変わらない歩調で歩いていきたい絹、最初は一緒だった2人の価値観が少しずつ離れてしまいました。
お互いに対する気持ちが変化してしまった
今まで麦と絹はコミュニケーションを通じて、同じペースで進んでいました。しかし、社会人になったことで1日の時間を仕事に使うことが多くなり、次第に2人で過ごす時間も少なくなってしまいました。
そんな中、麦の先輩が亡くなってしまったのです。先輩の死に直面し、深い悲しみに打ちひしがれてしまう麦は、絹に話を聞いてもらいたい気持ちでした。
しかし、絹はその先輩が以前絹の知人と交際していただけでなく、暴力を彼女に振っていたことを知っていました。暴力を振っていたことを知る絹は、複雑な気持ちから何ともいえない感情で、葬儀後麦と先輩について会話することなく寝てしまいます。
先輩の死という悲しみに向き合うため、絹にコミュニケーションを求める麦は寝てしまった絹を尻目に涙を流します。これが、お互いの気持ちが次第に変わっていく瞬間だったのでしょう。
将来像にズレが生じてしまった
映画の中で決定的な出来事は、2人の描いている将来像が違っていたことです。2人は、お互いに25歳になり、最後のデートを楽しんだ後、思い出の詰まったファミレスに行きました。
あとは別れ話をするだけです。絹は笑顔で、「楽しかったことだけを思い出にして、大事にしまっとくからさ。」と言いました。麦も悲しくも微笑むのですが、やはり絹との別れは辛く、別れなくても結婚しようと言ってしまいます。
麦は絹と一緒にいることが大事で、たとえ恋愛感情が無くなっても家族として生きていきたいと考えていました。気持ちが冷めたなら、いい夫婦になれる準備ができたことだと続けますが、一方の絹は、麦の気持ちが理解できません。
しかし、麦は家族になったらこんな風になろうと提案し、結婚して幸せになろうと続けます。絹も視線を落とし、そうかもしれないと思うのですが、2人はやはり別れを選ぶのです。
現実的な結婚、家族、夫婦はこのようなものかもしれません。でも、結局花束は枯れてしまうのです。
原作と映画は相違点がある?
『花束みたいな恋をした』は、原作がなく脚本家である坂元裕二さんの完全オリジナルの作品です。そのため、原作ではなくノベライズ本として書籍が発売されています。
ノベライズとは小説化するということですが、映画に忠実なものとなっているのでしょうか?
ノベライズと映画ならではの相違点がある
ノベライズは映画を小説化したものなので、映画と同じストーリーが展開されています。しかし、映像では表現や間などでうまく心情を表現できますが、ノベライズではそれが表現しにくい所もあり、若干の相違点があります。
例えば、映画でセリフが無かった所でも、小説では登場人物がどのような考えだったのか、気持ちだったのかが分かるように細かに描かれます。そのため、ノベライズを読むとその時の気持ちがよく分かるでしょう。
原作を先に読む?それとも映画を先に見る?
同じストーリー展開だと、どちらを先にするべきか悩むことでしょう。映画を先に見てから答え合わせのような感覚でノベライズを読むのも良いのですが、じっくりノベライズを読んで映画をみると、より心に刺さるかもしれません。
映画もノベライズも、どちらからでも楽しめるでしょう。
より楽しみたいなら伏線から考察してみよう
作品の宣伝などのショートムービーから、作品の雰囲気やラブストーリーであることが想像できますが、この映画は伏線と回収も楽しめる作品です。ここでは、伏線から考察できるポイントを紹介していきます。
匂わせなタイトル
まず、すぐに目に付くのが『花束みたいな恋をした』というタイトルです。「恋をした」という過去形で締められていることから終わりが予想でき、花束は恋を連想できます。
花の一番美しい所を束ねた花束は、そのままの状態を保つことができず、枯れていってしまいます。まさに2人の恋が花束のように美しかったのと同時に、枯れていく様が描かれているのです。
チューリップの花言葉は?
劇中内で絹が麦に相談することなく転職を決めてしまい、お互いにケンカをしてしまうシーンがあります。この時、花瓶に飾られていたのはチューリップです。
チューリップの花言葉は、「心の移り変わり」であり、まさに麦と絹の心を表す花となっているのではないでしょうか。
イヤホンの使われ方にも要注目!
映画の冒頭で、2人が距離を縮めるシーンがあります。それは、1つのイヤホンを2人で分けて聞くという部分です。お互いの会話のネタが尽きず、好きな音楽を2人で楽しんでいました。
しかし、終盤になると麦は仕事漬けの日々になり、好きだったことへの気力もありません。一方の絹は、給料よりもやりたいことを選び、転職してしまいます。
趣味への情熱が失われた麦、サブカルチャーを愛す絹、会話やコミュニケーションの減少からイヤホンを分け合うこともなくなってしまいました。
このようにイヤホンの使い方が重なるシーンは、映画の中に散りばめられています。ポイントは1つのイヤホンを2人で分けて聞くという部分です。麦と絹が3回目のデートでファミレスにいった時、お互いのイヤホンを分け合って音楽を聴こうとしたところ、他のテーブルに座っていた男性に「音楽を好きな人がすることではない」と指摘されます。
そして、麦と絹が別れを選んだ後には、麦の目にイヤホンをお互いに分け合って音楽を聴こうとしているカップルが見えました。絹と付き合っていた時、注意されたことを思い出したかのように、麦は一緒にいる女性に対して「あのカップルは音楽が好きではない」と言いました。
時を同じくして麦と同じ空間にいた絹も、別のテーブルからカップルの様子が見えていました。さらに、絹も同じように一緒にいた恋人の男性に対して「(イヤホンを分けるのは、)ベーコンサンドのベーコンとレタスを分けるようなものだ」と語っていたのです。
別れても偶然同じ空間で、同じ光景、そして麦と絹がしていたようにイヤホンを分けて聴こうとする姿は、当時の2人の様子をリンクさせるものとなっています。
主題歌はインスパイアソング!?
『花束みたいな恋をした』の主題歌は、通称ACC(Awesome City Club)が担当しています。映画内では流れていないため、インスパイアソングではないかとされています。
インスパイアとはひらめきを与える、感激させるなどの意味があるため、『花束みたいな恋をした』に感銘を受けたACCが「勿忘」を作ったとされています。「勿忘」はワスレナと読みますが、漢字個々の意味を調べると「勿」は「~するな」という意味があり、忘れないで欲しいという願いが込められていると読み取れます。
また、歌詞には映画の内容とリンクできるような世界観が、切ないメロディーと共に流れてきます。『花束みたいな恋をした』をより感じたいなら、ACCの「勿忘」もチェックしてみましょう。
『花束みたいな恋をした』ネタバレまとめ
菅田将暉さん、有村架純さん主演の『花束みたいな恋をした』は、日常のあるカップルの出会いから別れまでを切り取ったような、自然な時の流れ、心の移り変わりを表現した作品です。恋愛は、誰もが幸せな時間を過ごしながらも、時には辛く、時には甘く、時には楽しく感じるものです。
そんな花束のような彩りをまとった時間が、この映画では誰もが共感できるポイントとなっています。主演2人の姿と自分自身を重ねやすい内容なため、涙も欠かせない映画です。
興味のある方は、ハンカチを片手に持ちながらお楽しみください。