21世紀最も怖い映画『ヘレディタリー/継承』の概要
タイトル:Hereditary(邦題:『ヘレディタリー/継承』)
全米公開:2018年6月8日
日本公開:2018年11月30日
製作会社:A24、パームスター・メディア、フィンチ・エンターテインメント、ウィンディ・ヒル・ピクチャーズ
配給:A24(日本配給:ファントム・フィルム)
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『ヘレディタリー/継承』は2018年に公開された、アメリカのホラー映画。
冒頭でも紹介したように、「21世紀最も怖いホラー映画」として評価されている映画です。
日本国内でも「めちゃくちゃ怖い!」と話題になりました。
日本で有名な映画評論家町山智浩さんやライムスター宇多丸さんからも絶賛の声が上がっており、ホラー映画としての完成度の高さがうかがえます。
製作は昨今アカデミーにも受賞した「ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語」、「ムーンライト」などクオリティの高い作品を量産して知名度を上げてきたA24です。
『ヘレディタリー/継承』のあらすじ
森の中の一軒家で暮らすグラハム家の祖母エレンが亡くなった。
エレンの娘であるアニーは気難しいエレンとの接し方に複雑な感情を抱いていた。
晩年の介護から解放されたはずのアニーだったが、何故か胸中は不安ばかり。
その不安が的中するように、グラハム家の人々に奇妙な出来事が起き始める。
夫スティーブにかかってくる不審な電話、息子ピーターとアニーの深まる確執、娘チャーリーの奇行…。
次々に起こる負の連鎖からグラハム家は逃れられることができるのか。
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『ヘレディタリー/継承』は古典的なホラー映画の設定を現代版にアップグレードした作品として、注目されました。
話の内容自体に斬新な設定はないものの、長い間人々を引き付けるホラー映画の原点に立ち返るといった点で今後も愛されるホラー映画ではないでしょうか。
『ヘレディタリー/継承』のキャスト・スタッフ
【監督・脚本】アリ・アスター
【キャスト】
アニー:トニ・コレット
スティーブ:ガブリエル・バーン
ピーター:アレックス・ウォルフ
チャーリー:ミリー・シャピロ
ジョーン:アン・ダウド
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監督・脚本共に担当したのは新人アリ・アスター。
なんと今作が長編デビュー作とのこと。
新人の登竜門と呼ばれる「サンダンス映画祭」でも『ヘレディタリー/継承』は激賞されており、次作『ミッドサマー』といったヒット作を連発しています。
彼の作り出す世界観が今後も楽しみですね!
次々に襲う恐怖を作り出したキャストにも注目。
アニー役のトニ・コレットは「シックス・センス」や「リトル・ミス・サンシャイン」など多くの有名作品に出演しています。
母親役の多い彼女ですが、今作ではその集大成ともいえる圧巻の演技でした。
血筋による宿命にもがきながらも家族を守りたい内面が表情からも読み取れ、時に狂気にも見えるほど。
こんな母親ははっきり言って嫌だと思わせられることがスゴイと思いました笑。
また、今作で最も存在感のあるキャラクターと言えばチャーリー役を演じたミリー・シャピロでしょう。
ミリー・シャピロは今作が映画初主演。
普段はブロードウェイ劇で活躍する舞台役者なんだそうです。
普段の写真を見ても何も感じませんが、『ヘレディタリー/継承』の劇中だととにかくビジュアルが怖い。
「絶対何かあるだろ、コイツ」と思わせられる演技に目を惹かれること間違いなし。
グロい?犬が死ぬ?怖すぎる『ヘレディタリー/継承』は鑑賞注意!
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『ヘレディタリー/継承』が見れるVODサービス
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『ヘレディタリー/継承』は見る人にとってはトラウマになる可能性がある非常に刺激の強い作品です。
実際にTwitterでも「怖すぎ」「寝れない」などの意見が多くありました。
その中には、苦手な方は控えたほうがいいかも…という口コミも。
口コミ踏まえると、
・ホラー映画耐性があまりない方
・動物などが死んでいくのが耐えられない方
・グロテスクなシーンが苦手な方
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以上のいずれかに当てはまる方には、あまりオススメできない鑑賞注意作品となっていますのでご注意ください。
トラウマ必然!『ヘレディタリー/継承』のネタバレ
※ここから先はネタバレを含む内容になります!まだ鑑賞していない方はご注意ください!※
『ヘレディタリー/継承』のあらすじを紹介していきます。
ネタバレを含む内容になりますので、未見の方は注意してください。
起.グラハム家祖母・エレンの死
グラハム家の祖母エレンが亡くなった。
家族の母アニー、父スティーブ、息子ピーター、娘チャーリーはエレンの葬儀に参列する。
エレンに育てられたアニーは、気難しかったエレンに愛憎混じる感情を抱きつつも母親の葬儀に多くの見送り人が参列していることに驚いていた。
アニーがエレンの私物を整理していると、アニー宛のエレンの手紙が紛れているのを見つける。
「どうか許して 多くを言えなかった 失うものを嘆かないで 犠牲は恩恵のためにある」
と綴られた手紙にアニーは何か違和感を覚えるのだった。
葬儀から数日後、日常の生活を過ごすグラハム家に1通の電話が入る。
父スティーブが内容を聞くとエレンの墓が掘り起こされ荒らされたという。
埋葬直後の出来事に不信感を覚えるスティーブであった。
アニーは以前に通っていたグループセラピーの会に足を運ぶ。
祖母は晩年解離性同一障害で認知症を患っていたこと、それを看取り介護から解放されて荷が下りたと語る一方で、父が妄想性のうつ病でアニーが子供のころに亡くなったいることや、アニーの兄チャールズは16歳のころ統合失調症で首吊り自殺をしていたことなどを語っていく。
アニーは自分を除くグラハム家の人間の悲惨な末路が、今後家族にも起きてしまうのではないかと不安を吐露するのであった。
承.事故によるアニー(母)とピーター(息子)の確執
グラハム家の長男ピーターは、明るく社交性のある快活な青年である。
親の意向によって気難しいエレンとのかかわりはほとんどなく、祖母の死には何も感じていない。
反対に、娘のチャーリーは「コッ」と喉を鳴らすのがクセの内気な妹。
友人のいないチャーリーはグラハム家で唯一祖母エレンに育てられたこともあり、祖母の死にショックを受けていた。
ある日、ピーターは友人にパーティに来ないかと誘われる。
ピーターは母アニーにパーティに行くために車を貸してほしいと頼むが、車を貸す条件として祖母の死に落ち込んでいる妹を連れていけとチャーリーの思いとは別に強制的に同行させる。
ピーターとチャーリーは二人でパーティに参加するが気の合わない二人は別行動。
ピーターが友人とマリファナを吸っている間にチャーリーはナッツ入りのケーキを食べてしまう。
ナッツアレルギーであるチャーリーは呼吸が苦しくなりピーターに助けを求める。
チャーリーを乗せ車で病院へ向かうピーターだったが、通行途中の道路にあった鹿の死骸を避けるために大きくハンドルを切った。
その直後、少しでも多くの空気を吸おうと窓を開けて顔を出していたチャーリーの顔は道路脇にあった電柱と衝突してしまう。
予想外の出来事に気が動転してしまいそのまま何事もなかったかのように帰宅するピーター。
翌日の朝、アニーは車で出かけようとした際に車で首のないチャーリーを見つけて発狂する。
電柱があった道路脇にはチャーリーの首にアリが群がっていた。
不慮の事故であったとはいえ、妹のチャーリーを死に追いやってしまったピーターは自責の念とストレスからか車のフロントミラーの幻覚を見たり、チャーリーと同じように呼吸が苦しくなるようになったり、ふとチャーリーが喉を鳴らす「コッ」という音が聴こえるようになってしまう。
アニーは自身の強制的な提案が事故を起こしてしまったことと、加害者でもあるピーターへの許せない気持ちに精神を病み始める。
再度グループセラピーの会へ向かうと、祖母の話を聞いていたジョーンという中年女性と再開。
娘を亡くした話を聞いたジョーンは、いつでも話を聞くからと彼女の連絡先をアニーに教えるのだった。
アニーとピーターの仲を取り戻そうと、スティーブは料理をふるまい家族の団らんの場を作るがそれも逆効果。
言い合いになるアニーとピーターの関係性は悪化するばかりであった。
転.ジョーンの正体
ジョーンの連絡先を教えてもらったアニーは、新たな一歩を踏まなければならないとジョーンの家で話を聞いてもらうことにする。
息子と孫を亡くしてしまったジョーンはアニーの話を親身に聞いてくれた。
アニーはチャーリーの死に加えて、息子ピーターとの関係について話す。
アニーが以前グループセラピーに通っていたのは、自身の夢遊病で起きた事故が原因であった。
眠っている間にアニーがピーターとチャーリーを巻き込んで心中しようとしたと語る。
自分を殺そうとしていることを知っているピーターは、深く傷つき母親であるアニーを恨んでいるとジョーンに話すのだった。
別の日、アニーが買い物をしていると偶然ジョーンと再会する。
そこでは以前とは別人に見える快活なジョーンがいた。
彼女が話すには有名な霊能者の降霊術によって死んだ孫と出会うことができたのだと話す。
突拍子もない話を全く信じないアニーであったが、実際に見せるとジョーンの家に行くことに。
触っていないグラスが動いたり宙に浮いたチョークが黒板に文字を書くのを見たアニーは、戸惑いつつも霊の存在を信じていくようになる。
その日、夢遊病で自身とピーターと再び心中しようとした夢を見たアニーは意を決して降霊術を行う。
スティーブとピーターを起こし、ジョーンに言われたように儀式に挑むアニー。
ジョーンの時と同じようにグラスが動いたことにアニーは感激するが、スティーブとピーターは異様な空気に怖気ずく。
儀式を続けると何故かアニーにチャーリーが乗り移ってしまう。
スティーブがアニーに水をかけると、平常のアニーに戻るがピーターは泣き叫ぶままであった。
儀式後、以前にもましてピーターの幻聴や幻覚はひどくなっていった。
授業中は謎の光が見え、窓の反射する自分は怪しげに笑っている。
夜には首のないチャーリーが現れ、頭を引っ張られる夢を見る。
チャーリーの部屋では生前愛用したチャーリーのスケッチブックにピーターが泣いている絵が何枚も描かれていた。
ただならぬ事態だと察したアニーは真相を掴むためにジョーンの部屋を訪れるが、ジョーンの家に行ってもジョーンはいなかった。
そこで、以前にジョーンの家に行った際に気になっていた玄関のマットに気づく。
玄関のマットは祖母のエレンが持っていたものと酷似していたのだ。
帰宅したアニーは祖母の遺品を物色する。
その中には祖母とジョーンが二人並んで撮影された写真アルバムと「地獄の王ペイモン召喚の儀式」と綴られた書物が見つかった。
祖母エレンとジョーンはペイモンを王とする悪魔崇拝の教徒であったのだ。
アルバムには家の屋根裏部屋で何かの儀式が行われている写真を見つけた。
アニーが屋根裏部屋に行くと、そこには真っ黒で膨張した首なしのエレンの遺体が血で書かれた模様と一緒に放置されていた。
模様はエレンが生前つけていたペンダントと全く同じものであった。
時同じくして、学校にいるピーターは遠目から自分に怒鳴り声で何か呪文を唱え続けているジョーンを目視する。
「肉体から出ていけ」と聞いたピーターは恐ろしくなり、教室に戻るが意識を失い呼吸荒々しく机に頭を激しく打ちつけてしまう。
地獄の王ペイモンは儀式完了後、男の体に宿ると書物に書かれている。
ジョーンは祖母エレンの死後、儀式遂行を継承した人物だったのだ。
結.ペイモン(パイモン)召喚の儀式
驚愕の事実を知り錯乱するアニーの代わりに連絡を受けたスティーブは、気を失ったピーターを学校から家に連れ帰る。
アニーはスティーブに全てを話すが、ここ最近のアニーの様子がおかしいため遺体を発見しても全てを信じることができない。
ピーターを助けるために、チャーリーを呼び寄せたときに使用したスケッチブックを燃やして欲しいと懇願するがスティーブは警察を呼ぶと言い切る。
アニー自らスケッチブックを暖炉に投げ込むが、本が燃えると同時にスティーブも燃え上がる。
夜になり自室で目覚めたピーターは、部屋の明かりが全くない家を不思議に思う。
リビングで焼死体となった父スティーブを見つけ悲しみに暮れていると、部屋の隅で見知らぬ全裸の男を見かける。
それと同時に、母アニーが何故かピーターを無言で追いかけ始めた。
訳も分からず、屋根裏部屋に逃げ込んだピーターだったがそこにはたくさんのろうそくとピーターの目を潰した写真が添えられていた。
物音がした方向を見ると、宙に浮かびながら自分の首を切断しようとしているアニーの姿が。
目の前に全裸の人々も現れ錯乱したピーターは屋根裏部屋の窓を突き破って庭に倒れてしまった。
倒れたピーターに謎の光が入り込む。
起き上がったピーターは家の離れ小屋に誘われるように歩いて行った。
離れ小屋では、チャーリーの首に王冠が添えられた金色の仏壇のようなものがある。
それに向かって全裸の人々と、首のない祖母のエレン、先ほど首がなくなったであろうアニーが深々と頭を下げている。
離れ部屋で頭を下げていたジョーンはチャーリーが被っている王冠をピーターに被せる。
今まさに、地獄の王ペイモンは復活したのであった。
意味不明?『ヘレディタリー/継承』のネタバレ解説と9つの考察
『ヘレディタリー/継承』はホラー映画として怖さを楽しめる映画でありますが、鑑賞後「結局、どういうこと?」となる部分が多くあります。
ここでは9つのポイントからネタバレ解説と考察をしていきます。
アナタのわからなかった部分を一緒に考えていきましょう!
1.悪魔崇拝「ペイモン(パイモン)」とは?
物語の終盤、突然出てくる「地獄の王ペイモン」。
「え、いきなりそういう感じの設定出してくるの?」となった方も多いと思います。
しかし、日本ではあまり馴染みがありませんが、ペイモンは実際にヨーロッパの伝承などに登場する悪魔なのです。
wikipediaで調べると実際に項目として存在し、以下のように紹介されています。
パイモンまたはペイモン(Paymon, Paimon)は、ヨーロッパの伝承あるいは悪魔学に登場する悪魔の1体。悪魔や精霊に関して記述した文献や、魔術に関して記したグリモワールと呼ばれる書物などにその名が見られる。
引用元
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日本語では「パイモン」と称されている場合もあるようです。
劇中で祖母のエレンが身に着けていたネックレスと、実際の文献で記録されているペイモンのシジル(紋章)を見てください。
二つはほとんど同じ模様なんです。
映画の内容と同様、文献でもペイモン(パイモン)は召喚者に地位や人文学・科学などの知識も与えると言われています。
文献でのペイモン(パイモン)は
・王冠を被り女性の顔をした男性の姿をしている
・トランペットやシンバルなどの楽器携えた精霊を先導して現れる
・ヒトコブラクダに乗っている
との特徴があり、『ヘレディタリー/継承』でも多くがこの設定との共通点があります。
王冠を被り女性の顔をした男性の姿をしている
ラストの離れ小屋のシーンでジョーンはピーターのことを「チャーリー」と呼んでいます。
つまり、チャーリーはもともとペイモン(パイモン)の魂を宿すために生まれた子供であったのではないでしょうか。
文献でのペイモン(パイモン)は王冠を被り男性の姿をしていると記述されていることから、『ヘレディタリー/継承』では「チャーリーの心」と「ピーターの体」がペイモン(パイモン)の復活に必要であったと考えられます。
トランペットやシンボルなどの楽器を携えた精霊を先導して現れる
ペイモン教徒が集まった離れ小屋のシーンでは、鐘の音のような音が流れ続けていました。
実際に、教徒が鳴らしていたものか劇中歌かは不明ですがいずれにせよペイモンの出現を告げるために意図した演出だと思われます。
『ヘレディタリー/継承』におけるペイモンの儀式
劇中の書物に描かれるペイモン(パイモン)は文献の記述のようにヒトコブラクダに乗っている姿が見られますが、注目したいのはペイモン(パイモン)がぶら下げている3つの首。
劇中でのペイモン(パイモン)の儀式は、グラハム家の女性の首を3つ捧げることが条件であったのかもしれません。
また、祖母エレンは離れ小屋で王妃リーとして飾られていました。
悪魔を崇拝するが故に、自分の息子の肉体と死してなお婚約したいという祖母エレンの異常な計画が垣間見えます。
2.「ザザス」「サトニー」…劇中で現れる謎の言葉の意味
物語の節々で登場する「ザザス」「サトニー」などの謎の言葉。
これも実際に古来より伝わる降霊術(ネクロマンシー)の一種として文献などに残っている言葉です。
また、『ヘレディタリー/継承』では謎の言葉以外にも壁や床に多くの象徴的なシジル(紋章)がちりばめられています。
「Satony(サトニー)」
物語序盤のチャーリーの部屋の壁で見られる言葉。
「死者とのコミュニケーションを取るために使われた言葉」と言われています。
チャーリーの奇行は、エレンが儀式を進めるために死してなおチャーリーに指示を出していたのかもしれません。
「Zazas(ザザス)」
グラハム家夫妻のベッドに書かれた言葉。
「Zazas(ザザス)」は実在した著名なイギリス人オカルティスト、アレイスター・クロウリーがコロンゾンという悪魔を呼び出した際に使用した言葉と言われています。
チャーリーを失ったアニーが悲しみに暮れてペイモン(パイモン)が祀られていた離れ小屋で
眠るシーンの前に描写されているのが意味深です。
チャーリーを蘇らせようとしてペイモン(パイモン)を召喚する儀式を行ってしまうアニーを示唆しているのでしょう。
「Liftoach Pandemonium(リフトーチ・パンデモニアム)」
アニーによる儀式終了後、アニーのミニチュア作成作業場の壁に書かれた言葉。
日本語字幕では「地獄の扉よ 開け」と略されています。
「Liftoach」はヘブライ語で開くという意味。
「Pandemonium」は地獄の意味に加えて、ルシファーがいる悪魔の巣窟という意味もあります。
ラストでジョーンは「良き使い魔を与えたまえ」と発言していることから、ペイモンはいくつかの悪魔を連れているのでしょう。
儀式を行ってしまったことにより、ペイモン(パイモン)が力を持ち始めてしまったことを暗示しています。
「ザンタニー、ダグダニー、アパラゴン」
ピーターが学校での休憩中、ジョーンが遠目からピーターに叫ぶ呪文。
本来は召喚された悪魔を霊界へ還すおまじないと言われています。
劇中ではピーターに対して「肉体から出ていけ」と言っていたので、ペイモンが召喚されてなお中々体を明け渡さないピーターに向けて唱えた呪文になっています。
「ペイモン(パイモン)教のシジル(紋章)」
祖母エレンが葬儀でしていたネックレスや、屋根裏部屋でエレンの遺体と共に血で描かれていたシジル。
また、チャーリーの死の原因となる電柱にも同じシジルが描かれていました。
このことから、ペイモン(パイモン)教徒を意味するシジル自体にも力があるものと思われます。
度重なる事態から起きたチャーリーの事故でしたが、これもペイモン教徒たちが仕組んだ罠であったのです。
「床に描かれるトライアングル」
トライアングルは冒頭エレンのベッド付近の床に描かれています。
トライアングルは古来より霊や悪魔の召喚をするために大きな役割を果たすシンボルとして扱われてきました。
ジョーンの机にも中心にピーターの写真を添えたトライアングルがある描写があり、ピーターの肉体にペイモンを宿そうとしていることがわかります。
3.悪魔の存在を知らせる「謎の光」と愛犬「レクシー」
物語終盤に明かされる悪魔の存在ですが、作中では悪魔の存在を臭わせる演出がいくつか登場しました。
【謎の光】
劇中いくどとなく登場する、謎の光。
この正体はやはり「ペイモン(パイモン)」でしょう。
光に導かれるチャーリーとピーターは、その先々で悪魔の存在を感じる描写が続きます。
・チャーリーが光につられて裸足で家を出ると、悪魔崇拝の教徒らしきものが火を炊いて儀式をしている様子が見られる。
・ピーターが教室に向かう先で光が教室に入っていくと、その後教室で正気を失い憑りつかれたようになる。
・ピーターが屋根裏部屋から飛び降りた後、光がピーターの中に入っていく。光が入った時点でピーターはペイモンになってしまったと考えられる。
【愛犬レクシー】
悪魔の存在を知らせていたのはもう一匹。
グラハム家の愛犬「レクシー」も悪魔の存在に気づいていたようでした。
・アニーがチャーリーを呼び寄せるための儀式後、それまで全く吠えていなかったレクシーが外で執拗に吠える声が聞こえる。
・ピーターがベッドで頭を引っ張られている際、レクシーが吠えている。
人間よりも五感が鋭いと言われる犬。
レクシーも悪魔の存在に気づいてグラハム家を救おうとしていたのかもしれませんね。
神社の狛犬やギリシャ神話に登場する番犬など、犬には魔除けの力があると言われています。
ラストのピーターが離れ小屋に向かうシーンでは背景に倒れているレクシーを目視できます。
生死があいまいな描かれ方ですが、おそらく悪魔崇拝教徒が魔除けの力を恐れて殺してしまったのでしょう…。
4.「コッ」が印象的なチャーリーは何者だったのか
物語序盤から異様な雰囲気をみせると思いきや早々に退場してしまうグラハム家の末っ子チャーリー。
監督は、『ヘレディタリー/継承』についてのインタビューで「チャーリーが生まれたときから、ペイモンは彼女の中にいた」と語っています。
作中では、アニーがチャーリーについて「生まれたときも泣かなかった」と発言しています。
おそらくアニーが眠っている間にエレンがおなかの中にいるチャーリーにペイモン(パイモン)召喚の儀式をかけたのではないでしょうか。
アニーによる儀式後、ペイモン(パイモン)の存在を示唆する謎の光をピーターは認識しているように見えますが、チャーリーは儀式がまだ行われていない序盤から光が見えていました。
つまり、チャーリーの中には既にペイモン(パイモン)が宿っておりペイモン(パイモン)完全復活のために儀式の準備を水面下で行っているのです。
授業中、パーティで作っているものや鳩の首は終盤のジョーンが儀式を行っている机に供物のように置かれていました。
また、チャーリーの特徴的な「コッ」と喉を鳴らす音は、楽器を携えた精霊を先導して現れるペイモン(パイモン)の比喩であるようにも感じます。
内気なチャーリーは死ぬ直後もアニーの儀式でアニーに憑依したときも苦しそうにしていました。
自身の意思とは別に、ペイモン(パイモン)復活の儀を進めさせられていた犠牲者の一人かもしれません。
5.アニーのミニチュアと夢遊病
グラハム家母のアニーは作中で最も焦点のあたる登場人物でしたが、明らかにならなかった部分も多くありました。
アニーを印象付けるいくつかのシーンから物語に繋がる部分を考察したので、解説していきます。
【ミニチュア制作】
アニーの作るミニチュア模型は物語を象徴しているように考えられます。
映画の始まり方は、アニーの作ったグラハム家のミニチュア模型がだんだんズームしてピーターの部屋を映していき、そこから実際にピーターの部屋に繋がる印象的なオープニングでした。
また、ラストシーンのペイモン教徒が「ペイモン万歳」三唱を唱える場面では、カメラが離れ小屋を引いて映しています。
これもミニチュアのように見える描写です。
アニーの作り出すミニチュアは、グラハム家に起こる物事には裏で大きな力が働いていて操作されていることを暗喩しているようです。
さらに言えば、ミニチュア作業をしているシーンにはいくつか不自然な点があります。
ピーターがパーティに行っていいか、アニーに断りを入れにミニチュア作業場に行くシーンでアニーは実際にパーティが行われた場所のような部屋のミニチュアを作っています。
ピーターはバーベキューに行くと嘘を言っているのでパーティとは言っていませんし、その話を聞くのは作業中が初めてのはずです。
作業場にあるメモは個展を開くために「仕事を続けて!」と書いてあったり、アーチャー画廊の留守番電話では家族を気遣う言葉を言っています。
もしかすると、アニーのミニチュア制作こそがペイモン復活のシナリオを作っており、アニー自身がそれを進めてしまっているのではないでしょうか。
事故後に、車と電柱の模型を作っていたアニーですがあまりにも実際の光景と瓜二つです。
実は事故後に作ったのではなく、あらかじめ隠して作っていたものを今作ったかのように見せていたのかもしれませんね。
【夢遊病】
自身の仕事であるミニチュア制作がペイモンの儀式の一部であるなら、自身のトラウマの夢遊病は反対の描かれ方をしていると言えます。
自我のない夢遊病の状態でアニーは実の子供であるピーターとチャーリーと心中しようとしていました。
ここから読み取れるのは、彼女の深層心理の中でこのままだとペイモン(パイモン)が完全に復活してしまうことを知っていたということです。
地獄の王であるペイモン(パイモン)の復活を阻止するためには、呪いの血筋であるグラハム家の血を途絶えさせなければならない。
自分が意識していない間にも復活は進んでしまっていることを知っていたアニーは自ら命を落とす行為を決行しようとしたのでしょう。
6.アニーの兄・チャールズ死の真相
序盤のグループセラピーの会でこれまでの家族の末路を淡々と話すアニーですが、このシーンでは16歳のときに自殺してしまった兄チャールズがさりげなく結末の悪魔崇拝を臭わせています。
チャールズの遺書には「母さんが僕の中に何者かを招き入れた」と綴られています。
祖母エレンの悪魔崇拝は、アニーが子供のころから始まっていたのでしょう。
しかし、ここでの儀式はチャールズの自殺という形で失敗に終わっています。
エレンの寝室で自殺していると語っているということは、エレンも予期せぬ何かが起こりペイモン(パイモン)に完全に支配されることなく兄チャールズは息を引き取ったものと思われます。
祖母エレンはおそらく、失敗した原因を悪魔崇拝に関する書物から研究し次こそ着実に成功させるために今回のペイモン(パイモン)召喚儀式を進めていたのではないでしょうか。
ペイモン(パイモン)の召喚には男性の肉体だけでなく、女性の首をいけにえにすることやペイモンの魂を宿らせる別人を用意しなければならないこと、ペイモンを肉体を与えるために肉体の持ち主を精神的に弱らせることなど。
自殺した兄チャールズの名前に類似した孫チャーリーがエレンに懐いているのも意味深です。
7.ジョーンがアニーに与えたお茶
アニーがジョーンの家に上がったとき、ジョーンに出されたお茶を飲みますが口元に黒い何かがついてふき取る描写がありました。
これは、アニーを錯乱させるためにジョーンが呪いをかけたお茶であったのでしょう。
この後の展開でアニーはグラハム家で完全に孤立してしまいます。
ジョーンに見せられた儀式ももしかするとこのお茶を飲んだせいで信じ込んでしまったのかもしれません。
8.燃える本と血族ではない夫スティーブの存在
ペイモン(パイモン)の儀式では男性の肉体が必要とありましたが、夫のスティーブは狙われませんでした。
これはグラハム家系の男性ではないからと言えます。
だからこそピーターがペイモンの器として選ばれたのでしょう。
グラハム家の家系は代々精神を病む傾向があります。
エレンもアニーもチャーリーもピーターも取り乱すシーンがありますが、夫のスティーブに関しては最後まで平静を取り持っていました。
ペイモンの復活には精神が弱った状態という条件が必要という描写が見られるので、邪魔者であるスティーブは始末されてしまったと考えられます。
アニーがチャーリーのスケッチブックを燃やしたのにも関わらず、火が乗り移ったのはスティーブでした。
これは、前項のジョーンのお茶を飲んだアニーがスティーブの飲む薬の中に何かを入れて同じ呪い状態に下のではないかと考えられます。
アニーの奇行に参ったスティーブはその後薬を服用するシーンがあります。
また、娘の形見であるスケッチブックと愛するスティーブを同時に無くすことによってアニーの心のよりどころがなくなり、そこにペイモンがつけこんで復活のための駒にするという魂胆があったのかもしれません。
9.救われないラストは冒頭授業シーン「ヘラクレスの選択」で暗示されていた
いくつかのポイントに分けて『ヘレディタリー/継承』を考察してきましたが、実はこの物語の結末は冒頭の授業シーンで結論付けられています。
ピーターが上の空で聞いている「ヘラクレスの選択」では、全てを支配できると考えている傲慢なヘラクレスに対して選択肢があれば悲劇性は高まるか?低くなるか?という疑問提起をしていました。
選択肢があれば悲劇を避けられるかもしれないという意見の一方で、
「どんな選択をしても避けられない運命があるならそこに希望なく、絶望的な仕組みの中の駒でしかない」
と異を唱える生徒の意見でシーンが終わります。
『ヘレディタリー/継承』はまさにそんな物語ではないでしょうか。
グラハム家の人々は、誰もがみんなを救いたかったと動く一方で全てがペイモン(パイモン)復活のために働いてしまいます。
あがいてもあがいても救われない物語。
一度考察を読んだうえでみると、さらに新たな発見や見事なまでの悪魔崇拝教の勝利を感じることができるかもしれません。
『ヘレディタリー/継承』のネタバレ感想|タイトルから読み取れる血の絆と呪い
原題のHereditaryは直訳すると、「遺伝的な」「先祖代々の」「親譲りの」という意味です。
この意味から物語を考えてみると、ヘレディタリーは家系による恐ろしさと絆の両面を描いた作品だと感じました。
『ヘレディタリー/継承』は霊などが登場するところに恐ろしさを感じるホラー映画です。
しかし、筆者個人としてはペイモン(パイモン)の存在よりも登場するキャラクターたちのどうにもならない状況というものに一番恐ろしさを感じました。
悪魔崇拝信者は、祖母のエレンの命令によってグラハム家で様々な儀式を行っていきます。
自分にとっては赤の他人が、安心する自宅に勝手に出入りするのはかなりストレスで気味が悪い。
それは、身内の祖母が許したからグラハム家内では許された行為になってしまいます。
自分の家に見知らぬ親戚が来ることで委縮してしまった幼少期をさらにエグく酷く描いた描写であったと感じます笑
こういった現実でも起こりうる人間の恐ろしさが、この作品の魅力でもあると思いました。
また、エレンの血筋を引いているが故に誰も悲劇的な展開から逃げられないというのも現実的です。
遺伝というものは運動神経が良かったり、頭が良かったりといういい意味もあれば、不得意なものや遺伝的な病気などの悪い意味も持ちえます。
精神を病んでしまう家系であったグラハム家は、みなその運命から逃れられずに悲惨な死を遂げてしまいました。
仮に、ペイモン(パイモン)の存在が全くの嘘であったとしても悪魔崇拝の信者に近寄られたらグラハム家の人々は正気でいられなくなり同じような結末を迎えてしまうのではないでしょうか。
グラハム家の人々は祖母エレンも含めて家族を愛していたと思います。
しかし、それぞれが良かれと思ったことが引き起こした結末は、絶対にちぎることができない家族の絆であり、同時に呪いでもあるのだと感じました。
アリアスター監督が語る『ヘレディタリー/継承』に影響を与えた作品
古典的なホラー映画設定を現代に蘇らせた『ヘレディタリー/継承』。
面白かったと感じた方は、アリアスター監督が影響を受けた名作ホラー映画を見ても楽しめるかもしれません!
『ヘレディタリー/継承』に継承された不朽の名作を3選紹介!
隣人の恐ろしさを描く「ローズマリーの赤ちゃん」
新婚の夫婦生活を描いたホラー映画。
新たな命を授かり夫婦生活は順風に見えたが、お隣に住む変わった老夫婦によって夫婦の生活は徐々に蝕まれていくというストーリー。
『ヘレディタリー/継承』でも印象的なキャラクター、ジョーンのような一見いい人が本当は一番怖いという作品。
隣人という近い関係の人物が引き起こす物語は、誰も信じられなくなってしまいますよね。
ベランダに出たときに目の前の家のカーテンが気になる方や、よくすれ違う人挨拶するだけの人は見ちゃいけません!!!笑
スリラー映画の原点「サイコ」
会社のお金を盗み出し、逃亡生活をする主人公が泊まったモーテル。
そこには謎の殺人鬼がいて…というお話。
言わずと知れた、名匠ヒッチコック監督映画。
サイコスリラーの原点とも言われ、時代を超えて愛される作品です。
『ヘレディタリー/継承』のチャーリーの死はまさに、この映画の急展開に次ぐ急展開に影響されているといっても過言ではありません。
日常は徐々に浸食される「回転」
サスペンス小説を原作としたホラー映画。
家庭教師を務める主人公が、屋敷に現れる邪悪な霊から兄弟を守るお話です。
様々な解釈のできる見せ方が現在でも論争されることもある作品。
『ヘレディタリー/継承』で考察しがいがある!と感じた方はぜひ、見てみてください
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「回転」は現在動画配信サービスではどこも見れないようです。
近くのレンタルビデオ屋さんで見つけたアナタはラッキー!!!
映画『ヘレディタリー/継承』のネタバレ解説まとめ
ホラー映画『ヘレディタリー/継承』のネタバレ考察について解説していきました。
最後に本記事をまとめていきましょう。
ヘレディタリー概要
・2018年公開のホラー映画
・アリ・アスター監督作品、出演はトニ・コレット、ガブリエル・バーン、アレックス・ウォルフ、ミリー・シャピロ、アン・ダヴド
・ホラー耐性がない人や「犬が死ぬシーン」や「グロ描写」が苦手な人は観覧注意
・31日間無料トライアルができる「U-NEXT」と「dTV」で視聴可能
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ヘレディタリーネタバレ内容
・祖母の死をきっかけにグラハム家で奇妙な出来事が立て続けに起こるストーリー
・祖母エレンと友人ジョーンによって、グラハム家は息子ピーター以外死んでしまう
・ピーターは、ペイモン(パイモン)という悪魔を祀る悪魔崇拝教によって最後はペイモン(パイモン)になってしまう
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ヘレディタリー考察ポイント
・実際の文献にもペイモン(パイモン)の存在を示唆する記述や紋章がある
・劇中で現れる「謎の光」の正体や悪魔を存在を感じさせる描写の数々
・母親アニーのミニチュア制作や夢遊病に込められた意味
・家族の血筋や、悪意の連鎖が生んだラスト
・アリアスター監督が影響を受けた作品「ローズマリーの赤ちゃん」「サイコ」「回転」にもヒントがあるかも
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一度見てしまった方もそうでない方も、以上を踏まえて見てみると自分なりの考察ができて面白い発見があるかも!
ぜひ、この機会に無料トライアルを利用して『ヘレディタリー/継承』をご覧ください!!!