現実の1997~2000年くらいの設定
9巻第75話にて、チェンソーマン第一部の時代が「1997年」であることが明確になりました。
『ダンスダンスレボリューション』1998年に登場
その後、10巻にてコベニが『ダンスダンスマッシュルーム』というゲームで踊らされます。
このゲームの元ネタとなった『ダンスダンスレボリューション』の登場は1998年なので、チェンソーマン世界は現実世界の1997~2000年くらいのイメージなのでしょう。
【疑問】コベニが公衆電話を探しているのは?
1997年にはまだケータイは普及していません。
ケータイの登場は1987年
ケータイの登場、と一口に言っても皆さんが想像するガラケーではありません。登場したときの姿は、ショルダーフォンと呼ばれる、バッグのような形状のものです。
まだこの時代、ケータイはレンタルするもの。とても高価で、個人が所有するものでもないし、「携帯」と呼べるほど小型でも軽量でもありませんでした。
ガラケーの登場は1999年、それまではポケベルが主流
不思議なのが、チェンソーマンの中に「ポケベル」と「PHS(無線通信機)」が登場しないこと。
●ポケベル 1968年に登場。 1996年まで携帯連絡ツールとして多くの人に活用されていた。 2007年にサービス終了。 |
●PHS 1995年に登場した携帯無線通信機。見た目はアンテナの生えたガラケー。 この通信機の登場を機にポケベルは衰退していく。 |
90年代後半、まだケータイが今のように普及する前までは、ポケベルが活躍していました。
1996年頃から利用者が減少したといっても、その頃のポケベル契約者数は1,078万人。デビルハンターのような外回りのある仕事ならばまだまだ使っていた人もいたはず。
ポケベルでなくても、1997年ならPHSを持っていてもおかしくありません。なのにチェンソーマンでは(第一部の時点で)誰も使っていないのです。
もしかしたら、チェンソーマンの世界にはポケベルやPHSが存在しないのかもしれませんね。
【世界設定】ソ連が崩壊せずに残る
ソビエト社会主義共和国連邦 1991年までユーラシア大陸北部に存在した社会主義国家。書記長ヨシフ・スターリンの指導により飛躍的な発展を遂げた大国。36年から何故かよく国民が死ぬ。(第1次モスクワ裁判) ナチスと共にポーランドを虐め、第二次世界大戦が勃発。 |
ナチスが消え、WWⅡも消えた世界
10巻83話のマキマと岸辺との会話で、『ナチス』と『第二次世界大戦』がチェンソーマンによって消されていたことが判明しました。
これによって、世界はどう変化したのでしょうか。
ナチスとの不可侵条約が消え、ポーランド侵攻が無くなった
=第二次世界大戦が起こらない。
ナチスの存在が消えたということは、独ソ不可侵条約もなくなり、この二国が共謀して行ったポーランド侵攻も無くなったと考えられます。
超略!独ソ不可侵条約! ヒトラー「第一次世界大戦で失った東ヨーロッパ取り返してぇな」 スターリン「旧ロシア帝国(東ヨーロッパ)支配下に置きてぇな」 ヒトラー「お、スターリンくん奇遇だね。」 スターリン「ヒトラーくん、私たち協力しあえると思わないか?」 ヒトラー「せやな(領土拡大のためにいつかソ連も潰すけど)」 スターリン「よろしく(いずれドイツも支配下に置いたろ)」
そんなわけで、独ソ不可侵条約が結ばれた。
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現在、第二次世界大戦の幕開けは「ドイツとソ連がポーランド侵略を始めた瞬間」という事になっています。
つまり領土拡大を狙っていたヒトラーがいなければ、この独ソ不可侵条約が結ばれる可能性が低くなり、この二国に脅かされることのない周辺国が戦争をおっぱじめることもなく、第二次世界大戦ほどの大規模戦争はまぬがれたかもしれません。
ただ、スターリンは変わらず存在したので、ソ連VS東ヨーロッパは、なんやかんや決行されたんじゃないでしょうか。
考察|ソ連は米国と並ぶ大国の地位を維持?
なぜ、『ナチス』と『第二次世界大戦』が消えたことでソ連が存続したのか、という疑問。
先述通り、正史でソ連は1991年に解体されています。
第一部チェンソーマンの時代設定は1997年。ソ連が未だに解体されずに残っているという、現実との差異が生まれていました。
【現実】 1991年にソ連解体 【チェンソーマン】 1997年にもソ連存続 |
チェンソーマンの世界で、『ナチス』と『第二次世界大戦』が無くなったことで、ソ連にどういった影響があって、ソ連は存続したのでしょうか。
【史実】石橋叩いて壊したブレジネフくん
1964年~1982年の18年間、最高指導者を努めたブレジネフ。彼の政権時代は「ソ連社会の停滞」と言われています。
●すごいよ!ブレジネフくん! 「やっぱスターリンさんパネェっす!リスペクトするっス!」 スターリン時代の圧制政策を再び行い、ソ連のあらゆる成長が停滞。 「国の平和のためや、国民なんかにやる金はねぇ。」 アメリカに張り合うため、兵力には沢山国費を出したけど、国民の生活は顧みなかった。 「俺に国費使うのも国のため。俺が国の頭脳だから当たり前だな!」 ブレジネフ含む特権階級が私腹を肥やし経済が破綻。 |
そんなわけで、前任者フルシチョフが作った石橋を、叩いて壊したブレジネフ政権は、ソ連崩壊のきっかけになったとも言われています。
【史実】アンドロポフくんの腎臓「もう無理」
ブレジネフの後に書記長に就任したアンドロポフくん。
アンドロポフは書記長就任後、ブレジネフ政権時代(ソ連社会停滞の時代)に蓄積された停滞と腐敗の一掃・労働規律の強化に乗り出し、とても多忙な日々を過ごしていました。
しかし志虚しく持病の糖尿病が悪化してしまい、就任半年後に病に倒れ、十分な成果を収められませんでした。
つまり、史実のソ連はこんな感じ。
●WWⅡ後のソ連最高指導者たち フルシチョフのターン 「スターリンみたいな圧制はやめて、平和路線行こうな。」 ↓ ブレジネフのターン 「最高指導者の地位マジサイコー。みんな俺のために働け。」 ↓ アンドロポフのターン 「(ソ連立て直しで)やることが!やることが多い…!」 |
ブレジネフのターンを挟んだせいで、折角スターリンの圧制から抜け出そうとしていたソ連が逆戻りし、ソ連の成長が遅れてしまったのです。
チェンソーマンの世界では多分こう
ブレジネフ政権でソ連が停滞・腐敗しなければ、ソ連立て直しに精力的だったアンドロポフのストレスは減り、糖尿病の悪化を防いで、アンドロポフは長生きし、成果を得ることができたはずです。
というか、ブレジネフに政権を握らせなければ、ソ連は早くに成長しアメリカに並ぶ大国に成長した可能性は大いにあります。
●ソ連存続クリア条件
ブレジネフ以降の政権は改革に積極的で、急速に旧体制からの脱却をしていきます。
しかし、急な改革は内部での不和を生み、保守派VS急進改革派VS穏健改革派の三つ巴が始まってしまうのです。
ブレジネフ政権で味をしめた保守派が幅を利かせなければ、こんな三つ巴は生まれなかったでしょう。
ついでに、共産党権力の弱体化により民族問題も浮上します。
保守派との抗争、民族暴動、バルト3国の独立…。
そんな感じで、今まで共産党の圧制により押さえつけられていた爆弾が弾け飛び、最終的にソ連は崩壊します。
●ソ連崩壊を防ぐ条件は? ・段階を踏んだ緩やかな改革 ・特権階級が暴利を貪らない ・ある程度共産党の強さを残す ・各共和国に対する統制力の維持 |
そう、ブレジネフ政権がなければソ連存続の条件のほとんどは達成されます…。
ソ連の社会が急成長し、早くにアメリカばりの大国になっていれば、連邦傘下の国が独立するメリットが減り、民族問題もある程度抑えられたと思います。
だからチェンソーマンはたぶん…なんやかんやズレが生じてブレジネフが最高指導者にならなかった、そんな感じの世界線なのではないでしょうか。
考察|歴史の辻褄合わせはどうなってるの?
そもそも『第二次世界大戦』が消滅してるってどういうこと?って感じですよね。
戦死者、その時代に生まれた兵器や技術、その他諸々…。
すべて無かったことになってるということですから、『空白の歴史』が生まれてしまいます。世界の辻褄合わせはどうなっているのでしょうか。
●戦死が病死や事故死に置き換わる?
作中マキマが行っているので、この辻褄合わせは可能でしょう。
戦争という歴史が消され、そこで戦死した人間は謎の病気や事故で死んだことになっている、かもしれない。
●消されたモノに疑問を持たない人間
あるいは、人間の脳内で都合のいいように補強されている可能性。
脳というのは「見えていないもの」を「違和感なく理解」する機能が備わっています。チェンソーマンによって常識が汚染された人間は、消されたモノに対して何も疑問に思わないようにできているのかもしれません。
考察|科学や娯楽の発展が現実より停滞している?
マキマとデンジの映画デートシーンのこと。
そして、「ポケベル」や「PHS」が登場していないのはなぜ?という先述の疑問についても考えていきましょう。
面白い映画が少ないのは悲劇が少ないから?
5巻の第39話にて、マキマとデンジは映画を観てつまらなそうにしていました。
そして最後に観た「難しくてよくわからないと評判の映画」とマキマが言っていた映画だけ、マキマとデンジは涙を流します。
一日中映画を観て、こんなにつまらない作品ばかりなんてこと、あるんでしょうか?
そして「大多数の人間が難しくてよくわからない」と評価する映画だけ涙を流したのは何故?
●物語の厚みがなくなっている?
『ナチス』『第二次世界大戦』『核兵器』…その他現実には存在しない、作中の世界で起こったであろう大事件や現象。それらはチェンソーマンによって消され、人々の記憶からも消えています。
個人的に、フィクションは現実という下地があって面白くなる…と考えています。
例えば、魔法少女系やヒーロー系。 元々魔法少女アニメや特撮ヒーローがあったからこそ、その後に生み出された『魔法少女まどか☆マギカ』『結城友奈は勇者である』『TIGER&BUNNY』『僕のヒーローアカデミア』などの作品に意外性が生まれ、作品の面白さは深まった。 |
現実とフィクションも、この関係と似ているのではないでしょうか。
核爆弾がなければ『はだしのゲン』のような作品も生まれず、
第二次世界大戦がなければ『異端の鳥』や太平洋戦争を描いた『硫黄島からの手紙』『父親たちの星条旗』も生まれず、
ナチスがなければ『ある画家の数奇な運命』も生まれない。
0から1を生み出すのはとても大変です。それは物語に関してもそう。
現実にあった悲劇を知らないから、創作に与えるリアリティが作り出せない。だから物語に厚みが生まれない。
悲劇を知らない人間が作った物語の薄っぺらさを、デンジもなんとなく感じ取っていたのかもしれないですね。
●世界観の問題も…
ついでに言うとチェンソーマンの世界では恐怖が悪魔を生み出すという世界観です。
国が人々に恐怖の感情を与えないように放送の規制や隠蔽なんか色々やっていてもおかしくないでしょう。
実際に「銃の流通は規制されている」なんて情報を国は国民に流していましたし、娯楽に対しても何か手を加えていたとしても不思議ではありません。
戦争がない、兵器もない、科学技術の発展は?
先述したように、チェンソーマンには「ポケベル」と「PHS」が(いまのところ)登場しません。
●ポケベルとPHS ガラケーが生まれる1999年まで活躍した携帯通信機。 『チェンソーマン』の世界は1997年設定なので、この2つが登場してもおかしくない。 |
ここから読み取れるのは、戦争が無くなったため、通信技術の発達が遅れているかもしれない、ということ。
戦時中、情報を敵に知られず、安全に素早く情報を伝えることは勝利への重要なカギとなります。
暗号を考えたり、新たな通信技術を研究したり…。
●山本五十六でわかる情報の大切さ 第二次世界大戦中、日本の電報がアメリカに傍受され、前線を視察中の山本五十六海軍大将の搭乗機がアメリカ軍戦闘機に撃墜された事件。 この頃すでに日本の暗号文はアメリカに解読されており、山本五十六の動向は全て把握されていたのです。 戦時中の情報伝達技術がいかに大切かわかる出来事ですね。 |
そういった戦時中の模索が下地にあって、現代につながるのであれば、その過程が消されたチェンソーマン世界で通信技術の発達が遅れたとしても不思議ではないでしょう。
●追記:第二部でケータイが登場
第二部で折りたたみケータイが登場しましたね。
折りたたみのPHSが登場しているということは、前身のPHSも第一部の時点で世界に生まれていたでしょう。
まあつまり、戦争が消えたことで通信技術の発達が遅れているかも知れない、という考察は的外れだったということですね。
まとめ
楽園実験というものがあります。
マウスに外敵の排除・十分な食料・その他諸々揃えた快適空間を与え、その中でどう生きるかを観察する実験です。
そこで生まれるのが「引きこもりのオス」「戦わないオス」「生殖行為に消極的なオス」「オス化し凶暴化するメス」「食われる子供」。
最終的に子供が生まれず、高齢社会と化し、ネズミの楽園は崩壊しました。
自然の脅威に晒されないネズミたちは、戦う必要が無いから戦わない、頑張らない。
『ナチス』『第二次世界大戦』『核兵器』その他諸々の脅威が取り除かれたチェンソーマンの世界では、既にその兆候が出ているのではないでしょうか。
もし仮に、マキマの野望が叶い、全ての脅威が取り除かれたら、人間も楽園実験のネズミのように緩やかに滅びそうですね。